愛すべきヒロインを描くドラマは脚本家と女優との名タッグによって生まれてきた。ドラマ好きライター・清田隆之が坂元裕二×松たか子のタッグで生まれた名作ドラマ『カルテット』について語ります!
ドラマ好きライターが語る、坂元裕二×松たか子『カルテット』の研ぎ澄まされた言葉たち

恋、涙、笑い、秘密、嘘が入り乱れ、ほろ苦くて甘いビターチョコレートのような大人のラブストーリー×ヒューマンサスペンスをお届けします──。『カルテット』の公式サイトにはこのようなステートメントが掲載されている。主人公「巻真紀」を演じた松たか子は、まさにこれを体現しているかのような存在だった。
名字と名前が同じというふざけた役名、極端に小さな声、中学生のようないたずら、二重三重に織り込まれた過去の秘密、相手に肩すかしを食らわすようなリアクション……。見ていて本当にみぞみぞする。怖いのか、優しいのか、真面目なのか、不真面目なのか、気が小さいのか、大胆不敵なのか、まるで捉えどころがない。でもつい笑わされてしまう。松田龍平扮する別府が面白いと薦めてきたDVDをポイッと放り投げる姿や(それも二度も!)、宮藤官九郎演じる、元夫の幹生を警察に送り届ける際に見せた「次行ってみよ〜」のポーズ(by いかりや長介)などは、真紀の可笑しさが象徴的に表現されていたシーンだ。
脚本を担当した坂元裕二は映画監督・是枝裕和との対談において、「松さんは日本一のコメディエンヌだと思っていて、確実に笑いがとれるという安心感がある」と語っていた。坂元作品において、生命線となるのはそのセリフまわしだ。ひとつひとつがアフォリズムのように研ぎ澄まされた言葉たち。その魅力を削ぐことなくセリフとして発するのは、想像するに難しそうだ。絡まった糸を変にほぐさず、かといって余計に絡ませることのないような、そんな繊細な作業をイメージする。馬鹿みたいな感想で恐縮だが、「松たか子って本当にすごい女優なんだ」と、心の底からそう思った。 〈人生には三つの坂がある。上り坂、下り坂、そして〝まさか〟〉
劇中で真紀はこう述べた。上げて、落として、予測を裏切る。松たか子はそんな演技を見せていたし、これはそのまま笑いを生み出す構造にも当てはまる。コメディエンヌの本質を表す言葉にも聞こえた。
【DRAMA DATA】
脚本:坂元裕二/DVD-BOX ¥19,000、Blu-ray BOX ¥24,000/発売元:TBS 発売協力:TBSサービス 販売元:TCエンタテインメント ©TBS
巻真紀(松たか子)、世吹すずめ(満島ひかり)、家森諭高(高橋一生)、別府司(松田龍平)。ある日、偶然出会った4人は、弦楽四重奏(カルテット)を結成することになる。2017年TBS系放送。
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清田隆之
1980年、東京生まれ。執筆業。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。
Photo: Tanoue Koichi Text: Takayuki Kiyota Edit: Tomoko Ogawa