愛すべきヒロインを描くドラマは脚本家と女優との名タッグによって生まれてきた。ドラマ好きライター・小川知子が相沢友子×深津絵里のタッグで生まれた名作ドラマ『恋ノチカラ』について語ります!
ドラマ好きライターが語る、相沢友子×深津絵里『恋ノチカラ』に見る30代の生きざま

時は2002年。30歳を迎えることが、今よりプラス10歳くらいのダメージを与えていた時代。「この世に生まれて30年と6カ月19日。もう恋をすることなんて、ないだろうと思っていた」という主人公のモノローグから始まるこのドラマを見ていた当時私も、こんなに繰り返し見返すことになるなんて、まったく思っていなかった。
ヒロインは、2年前に大手広告代理店のクリエイティブ課から庶務課へと異動したやる気のないOLである。楽して痩せる系の通販グッズをしこたま買い込み、夜な夜な散らかった部屋のベッドで、ひとり赤ワインのボトルを空け、『World Tragedy〜世界の悲劇』の録画を鑑賞し、酒臭いままで出社する。恋だけじゃなく、仕事や未来の自分までいろいろとあきらめてしまった独身の籐子を演じたのは、女優・深津絵里だ。とにかく透明感全開の美しい深っちゃんが、元祖干物女をやったところで何したってとびきり可愛い。「人の不幸って見てるとホッとするの」「緊張感? ないない、消えうせちゃった。あはは」と自嘲する籐子の、30年生きて身の丈をわかった女の切実な「ここで転んだらもう立ち上がれない」感はリアルに痛いが、それでもキュートなのである。コメディエンヌに必要な資質が、どんな災いが起きてもキュートであることだとすれば、彼女はまさに適任だ。
憧れの広告デザイナー、貫井が木村と独立した会社に〝人違い〟で引き抜かれた籐子は、冒頭のセリフとは裏腹に、貫井に恋をし、女として見てくれない彼の前でおちゃらけながらも、自堕落な過去を振り切るように、自分の居場所を求めて進み出す。
相沢友子が描く人物は、『鹿男あをによし』でも『鍵のかかった部屋』でも不器用でピュアだった。籐子だって同じだが、〝人違い〟という超ドラマ的要因なしには、安全地帯から外へは飛び出さなかっただろう。でも、それが弱ったり立ち直ったりを繰り返す私たちのリアリティで、だからこそ、自分が信じる正義を貫こうときらきらともがく主人公に、チカラをもらえたのだ。
【DRAMA DATA】
脚本:相沢友子/DVD4巻セット ¥19,200/発売元:フジテレビジョン 販売元:アミューズソフト ©2002フジテレビ
仕事にも恋にも夢をなくし、変化のない毎日を過ごしていた籐子(深津絵里)が、社のエースの貫井功太郎(堤真一)や木村壮吾(坂口憲二)とともに働くことで、忘れていたときめきを取り戻していく。2002年フジテレビ系放送。
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小川知子
1982年、東京生まれ。ドラマ・映画系の執筆、インタビュー、編集など。
Photo: Tanoue Koichi Text&Edit: Tomoko Ogawa