50年代の優雅なドレスに身を包んだ女性たち。でも、彼女たちの頭は、馬になっちゃっていたり、扇子や水差しといったモノになっちゃっていたり、パラシュートにくっついて、空を飛んでいたりもする。 ……と、言葉で書くと、結構ホラーな感じになってしまうけれど、これらはすべてコラージュの作品。そこはかとなく漂うファッションセンスは、ひと目みればおわかりいただけるだろう。
《沈黙の奇蹟》©Okanoue Toshiko, 東京都写真美術館蔵
私もこの展覧会まで、岡上淑子というアーティストを知らなかった。彼女は、1928年生まれ。デザインを学ぶ学生だった20代前半にコラージュという手法を得て、1950年代に彗星のごとく日本の美術界に登場した。正真正銘、少女だった頃に、彼女は自分の夢や空想で思い描く光景を、コラージュに託したのだった。
《轍》©Okanoue Toshiko, 高知県立美術館蔵
洋裁やデザインを学んでいた岡上は、とある授業で切り絵をすることになり、そこでたまたま頭部が切り離された女性の切り抜きを見てハッとしたという。時代のモードに敏感に反応していた彼女は、国内のファッション雑誌には飽き足らず、LIFEのような海外のグラフ雑誌や、VOGUEやHarper’sBAZAARといったファッション誌を素材に、次々とフォトコラージュ作品を生み出していく。当時、ファッション界は優雅でクラシカルな“ニュールック”全盛期。岡上の作品に登場するのは、そんな、ディオールやバレンシアガのたっぷりと生地をつかった贅沢なドレスをまとった女性たちだ。本展には当時のドレスが4点出品されていて、当時のムードを感じることができる。