GINZAでおなじみの自称モード界のご意見番プロフェッサー栗山による「モードそうだったのか!!」。独断と偏見を交えながら最新ニュースを嚙み砕きます。
ヴェトモン 2017-18年秋冬コレクションが発表される – プロフェッサー栗山がモードのニュースをわかりやすく解説
デザイナー交代のニュースに終始していたこちらの連載。ここで初めて別の話題を取り上げたい。
「ヴェトモン 2017-18年秋冬コレクションが発表される」
である。
1月24日にふつうにショーが行なわれただけ(オートクチュールの公式スケジュールなのでふつうではないが、先シーズンもそうなのでこの点は置いておくとして)で、私はスマホの小さな画面で見たにすぎないのだが、かなりの衝撃を受けた。
ここのところ、モードの世界は静かで、前回の続き、のようなコレクションが多い。私はといえば毎回違うものを見たいと新作に驚きを求めてしまう性。しかしそんじょそこらの奇抜なデザインでは(ファッションバカゆえに見すぎて)もはや心は動かなくなっている。抽象的で壮大なテーマ性もなんだかぴんとこない。
そんな渇ききっていた私がヴェトモンを見てやられた、と思った。だからニュースなんです!
ということで、今回はいつもより多めに独断と偏見を展開させてもらいます。
ファーストルックはミンクのコートを着たお金持ち風のご婦人だった。
あら、このままハイソなかんじでいくのかしらと思って画像を繰っていくと、
さまざまな職業、人種、年齢、ファッションのジャンルが表現されていることがわかり、ショーの前にネット上で飛び交っていた、インヴィテーションが偽ID、という情報がリンクした。
各報道によれば、デザイナーのデムナ・ヴァザリアは社会学的に人々をカテゴライズしてそれぞれのステレオタイプなスタイルを表現した、と言っている様子である。たしかに、パリ行くとにいるよね、こういうひとたち、とちょっと笑えるユーモアもある。たとえば、先ほどのルックは順に以下のようなことらしい。
レザージャケットを着た全身黒の屈強な男性…警備員
(ショー会場とか、百貨店とかにいる)
頭にスカーフを巻き、トラックパンツの上に花柄のスカートを履いた女性…ジプシー
(道端で見かける)
全身カモフラージュの男性…兵士
(テロ以来地下鉄の駅などに集団でいたりする)
デニムジャケットにホワイトジーンズの女性…「MISS SAN ANTONIO」
(サンアントニオとはテキサス州の都市らしい。アメリカ人女性でこんなかんじのひといるかもしれない)
ツイードのスーツを着たアジア人の女性…「MISS №5」
(日本人は、こういう風に見えているんでしょうね…)
サリーを着た女性…「MALAIKA」
(ふつうに見かける)
チェックのボダンダウンシャツにベストを羽織り、コーデュロイパンツを履いたおじいさん…年金生活者
(日本にもいる)
スウェット上下にナイロンジャケットを着たこわもての男性…「BRO」
(治安悪そうなところにいる)
黄色のウィンドブレーカーにパンツ+ナイロンバックパックの女性…「ANGELA」
(すごくよくいる。数的に一番多いかもしれない)
白Tにチェックのジャケット、ジーンズのおじさん…近所の人
(世界中にいる)
コスプレといえばそれまでだが、自国優先主義のトランプ大統領が就任し、ヨーロッパでも右翼ポピュリズム政党が台頭してきているとかいうこのご時世、とてもそうは見えなかった。
これだけ多様な人々が同じ場所に暮らしているんだ、ということがファッションを通してあらためてひしひしと伝わってきたのだ。メッセージTシャツを作る手もあるだろうが(ヴェトモンの服にも一部メッセージがプリントされていたらしいが)、コレクション全体でそれが感じ取られた。
そしてさらに重要なのは、テーマを訴えようとして浮世離れしていったりするのではなく、服もちゃんと魅力的だったということだ。今季もほしいものがいっぱいある。
これまで、シニカルな姿勢でパロディを駆使してきたヴェトモンだが、今回はただ揶揄するだけではなく、社会と地続きのひとつのまとまったメッセージをファッションショーとして発表することに成功したのではないだろうか。デムナはバレンシアガのメンズでもヒラリー・クリントンと大統領予備選を戦ったバーニー・サンダースのキャンペーングラフィック風のデザインを採用していたりして、今の情勢に何らかの思いを抱いているに違いない。「今季のテーマはパンク」とかコアな一部のスタイルを取り上げるのではなく(ショーにはパンクファッションも登場した)、もっとメタなところを、今このタイミングに一番しっくりくるやり方でファッションとして見せたヴェトモンが、一歩先を行っているかんじがしたのだった。
ってスマホ画面を見ただけで言いすぎなのか否か。
ショーをご覧になった方に今度感想を伺いたいものです。
Text&Edit: Itoi Kuriyama