関西で人気のショップ「VISITFOR」「I SEE ALL」の姉妹店となる「Dekay」がついにオープン!東京にどんな新風を吹かせるのか。オーナーの西脇篤史氏と内装を手がけた出版レーベル「Rondade」佐久間磨氏に直撃した。
「VISITFOR」の姉妹店「Dekay」がついに東京にオープン!
固定観念を払拭するスペースを目指す
代々木エリアの住宅地に誕生した「Dekay」。石段のステップを踏み、小道を曲がった先に現れる黄色いトンネルが目印だ。築70年の古民家を基に、1階はセレクトショップ、2階にはギャラリースペースを設け、「表現を観察する場」という目的を提示している。鋭いステートメントを掲げたオーナーの西脇篤史さんが思い描く店の在り方とは。
「今の社会は、“こうしなくてはいけない”という考え方が、擦り込まれている人が多い印象です。指示されないと動けないし、これが正解と言われたら、考える前に従ってしまう。同じような美意識や反応は求めず、直感で自由に表現できる環境を整えたいと思いました。そして、平均的な価値観に対して、異議を唱える店でありたい。ファッションもジャンルやスタイルは多角化されていて、流行より“人”が重要。なので、『Dekay』のスタッフを募っていますが、私たちのことを理解し行動できる人材を求めています。もちろんファッションに対する愛も大事ですよね。これまで関東からオンラインで買って下さっていたお客さんにも実際にご来店いただき、スタッフとの会話を通して認識を深めていってもらえたらうれしいです」
「試着室は、お客さんにとって舞台のように感じたので、“(Performance)”という文字を入れました」と佐久間さん。室内でも露出したままの砂利や根太などの土台から、一段高くなっている。1階の入り口からすぐの大きなミラーや壁には、他にも“ConfusioN”や“DEMO”など制作中に思いついたワードが潜む。斜めに曲がった入り口は通路の先が見えないよう工夫したのだそう。鈍いツヤあるアルミ板の隙間から蛍光灯の光がもれるさまは、どこか未来的。
内装を依頼した佐久間さんは、4年前の『I SEE ALL』での展示以来、『VISITFOR』のディスプレイやホームページのグラフィックもお願いしています。いつも発想の転換で随分見え方が変わるものだなと気づかされる。今回も、素材や配置に“Rondade節”がすごく出ていますよね。最初にスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(68)のイメージだけ共有して、あとはお任せしました。この辺りは、夜間は真っ暗なのですが、迷っていたらなんだろうと目に留まるような非日常な入り口がよいですよね。古い建物の外壁を壊さずに空間を作ってほしいと思っていたので、2階のアクリル板の仕切りの構造も気に入っています」
買いものをする場所に留まらない、思考を促すコンセプト。洋服のセレクトや今後のイベントへの興味も高まる。
「ゆくゆくは並べるブランドは大阪とは変えていきます。東京は、国内外さまざまな人が集う地なので、保守的になりたくない。秋冬から徐々に、新しいブランドを入れていく予定です。一押しは、ロンドンのジョアンナ・パーヴ。最初は、テクニカルなリュックに惹かれたのですが、サイクリングパンツやその上にはくスカートも一貫したカルチャーを感じさせ、とてもよかった。そういったフレッシュな若手デザイナーを国内外問わず取り扱い、彼らを支援していく場所でもありたいですね。2階のギャラリースペースでも、さまざまな展示を行っていきます」
服も空間も同居し創造を高め合わせる
内装を担当した「Rondade」の佐久間磨さん。既成の枠にとらわれない手法、素材使いで出版や什器の制作を行っている。初めてとなる店舗づくりへの手応えを尋ねた。
「一軒家なので、1階と2階は異なるスペースだけど、連動させて見せるのが課題でした。トンネルみたいな入り口は、内側が黄色く室内から突き抜けたように。1、2階を貫く階段を囲むボックスは、外側を同じ黄色にしています。2階は、[contents 18.6m2]という名前のインスタレーション作品のようでもあるし、展示スペースでもある。また、通常なら床材に使わないような素材(コンクリートを成型するための緑の木板=パネコート)をあえて象徴的に用いています。
そんなふうに、“反転していく”テーマが念頭にありました。僕の場合、建築家ではないからある意味設計図がない。頭の中の構想を、日々スタッフのみんなに言葉で伝えながら、その都度手を動かして築き上げていく。“直感の塊”をいくつも形にして、その全体を俯瞰しながらバランスをとっていく作業の繰り返しです。そういった工程は、本を作るのと変わりません。また、洋服のセレクトショップだからといえ、アイテムを単純に主役にするのではなく、什器含めすべてが干渉し合う配置にしています」
2階の展示スペースに壁は存在せず、アルミフレームで建物とcontentsの間に境界線が引かれるのみ。ギャラリーというと作品を目立たせる真っ白い四方の壁=ホワイトキューブを想起するが、その構造を脱した2階は、展示の仕方を工夫しなくては作品が負けてしまう。今後、ギャラリーの運営には佐久間さんも携わるというが、どのような場にしていきたいのだろうか。
今やほぼ目にしなくなった剝き出しの土壁や天井裏など、古民家ならではのディテールが残る。長年、幾人もが住まい改築してきた跡=時間の積層を活かしている。木の部分は丁寧に磨くことで“ぼやけた”印象を取り払うなど、大胆さと細かな仕事が込められた。建物に元からあった柱と同じ太さの木を用いた、天井から降りてきたような什器の角度にもこだわったという。エッジを効かせる黄色は「Rondade」の作品にも頻繁に登場する。
「頭が凝り固まっていない方に展示してもらいたいですね。造形物を綺麗に見せるためのシステムではないので、空間も一体に捉えてほしい。作品をかける壁がない18.6m2という制約の中で、どのようにここを活用するのか。一度、作家が思考する必要があるからこそ、新しいクリエイティブにつながる可能性が生まれるはず。建築や美術、デザインと、どの分野にいる人でも、一からの出発になるから、フラットな状態で取り組めるのではないでしょうか。
僕の活動自体、とても複雑ですが、“常識を覆していきたい”と同じ考えを抱いている人はきっとたくさんいる。そういう意思に共感できる作家たちとなにかできたらいいなと。この場所はあくまできっかけであって、その輪が広がっていき、ひとつの大きい潮流が生まれることを期待しています」
🗣️
西脇篤史
大阪の老舗ショップ「VISITFOR」と、2018年オープンの「I SEE ALL」のオーナー。買い付けで海外を飛び回る。
🗣️
佐久間磨
2014年、出版レーベル「Rondade」を設立。空間、アートブックのディレクションなど活動は多岐にわたる。