今モード界を牽引している〈バレンシアガ〉と〈セリーヌ〉に、ヴィンテージが何らかの役割を果たしている部分があるような気がしている。 ウィットを効かせつつ、おなじみの既製品を豹変させたり、意外なものと組み合わせたりすることで、つねに驚きを与える前者。 毎日の生活の中で触れるもの、感じることを自らの中で咀嚼し、丁寧にものづくりへと反映させている後者。 ヴィンテージをただ再現したり、アレンジしたりするのではなく、それぞれのアプローチの仕方で、とことん向き合っているに違いないのだ。 ヴィンテージ好きが愛する要素を擁しながらも、新しい。ぜひ、そんな彼らの服をじっくり見てみてほしい。
〈バレンシアガ〉ヴィンテージとの関係性を読み解くための試論

ブラウスが女性の衣服として定着するようになったのは、ドレスが簡素化され、上着とスカートで構成されるスーツが流行した19世紀末から20世紀初頭。以降装飾としてフリルが施され、女性らしさが表現された。1枚目の写真は1910年代、アメリカで着用されていたフリルブラウス。2枚目の写真の〈バレンシアガ〉は品のあるウーブンストライプでよりいっそうクラシックさを演出している。が、実は後ろ身頃には突如レーシングウェアを彷彿とさせるロゴ入りのサーモフォーミングのジャージーパーツが。時代性、ムード、ジャンルを軽々と乗り越えた、大胆で意外性のある組み合わせ。その堂々たるやり方に、いつも私たちは完敗してしまうのだ。
VINTAGE
1910年代のブラウス 2万2000円(パティナス ヴィンテージ クローゼット)/1920〜30年代のスカート 1万7000円(ジャンヌ バレ)/1990年代のピアス 2000円(オトエ)/1970年代のオニキスのリング 2万4000円(フックド ヴィンテージ)
BALENCIAGA
ブラウス 19万円、スカート 10万5000円*共に参考価格、オーバーニーブーツ 17万円、ベルト 6万1000円(以上バレンシアガ | バレンシアガ ジャパン)/イヤリング*モデル私物
本来は音楽やバレエ、演劇鑑賞の際にドレスの上に着用された。〈バレンシアガ〉が作ったものもそのルーツに沿う、ゆったりとしたAラインを描く、スタンドカラーのシングルのコート。しかし、左肩に1つだけ付いているボタンが肝。それを2番目のホールに留めたとたん、アシメトリーなシルエットになる。ブランド創始者クリストバル・バレンシアガが保存していた写真の中のハウスモデルが生地の一反を肩の上へ押しやるジェスチャーに発想を得たというが、クラシックなアイテムにほんの少し手を加えるだけで、現代の、さらにエッジーなところにまで一気にもっていってしまった。
BALENCIAGA
コート 32万6000円、Vネックのドレス 23万5000円、コートに付けたイヤリング 3万円*片耳での販売、タイツシューズ *参考商品(以上バレンシアガ | バレンシアガ ジャパン)/メガネ、リング*モデル私物
カナダの木こりたち向けのコートからヒントを得て、主にフランスでワークウェアとして普及した。防寒のために使用される毛皮やボアはなくしているが、ダブル・ブレスト、ポケットやボタンのディテール、ウエストを締めるベルトがカナディエンヌ・コートの特徴を表している。レザーに風合いを出している点にも、ヴィンテージを参照したことが推測できるかもしれない。肩に付いたボタンを留めた時のシルエットを計算し、パターンが練られている。
BALENCIAGA
ジャケット 47万8000円、トップ 15万7000円、プリーツスカート 13万1000円*以上参考価格、タイツ 2万1000円、パンプス 10万5000円(以上バレンシアガ | バレンシアガ ジャパン)/アクセサリー*モデル私物