京都が舞台の『赤い霊柩車シリーズ』など、数々の人気サスペンスドラマに長年にわたり出演し、名バイプレイヤーとの呼び声が高い俳優の山村紅葉さん。2025年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では女郎屋のやり手「志げ」を演じるなど、時代劇でも欠かせない存在だ。京都でのお仕事は数知れず、美味しいお店をたくさんご存じのはず。
「高校卒業までずっと京都育ちです。この仕事を始めてからは母・山村美紗の原作ドラマはじめ2時間サスペンスなど、京都が舞台の作品の出演も多かったので、京都には頻繁に来ていました。時代劇だと太秦の撮影所に通うことも多く、最近はグルメ情報番組などで京都の街ロケをすることもありますね」
花街の文化を体験しながら
季節の京料理に舌鼓
おすすめの店について、しばし悩んだ末にGINZA読者向けに挙げてくださった一軒目は「京料理 祇園 花郷」という店だ。
「祇園街の目抜き通りである花見小路に面していて、芸妓さんや舞妓ちゃんたちが踊りや三味線のお稽古をする『歌舞練場』の斜め向かいにあります。ここは一人でランチにうかがうこともありますが、お座敷に舞妓ちゃんや芸妓さんたちを呼べることが特徴です。通常、芸舞妓を呼べるのはお茶屋さんで、そこでは仕出し料理を頼むことになります。そうするとちょっとお料理が冷めてしまうこともありますね。『花郷』は従来の〝一見さんお断り〟の旧弊を崩そうとされているお店で、初めての来店でも美味しい懐石を楽しみながら芸舞妓を呼べるコースもあり、お酌をしてもらったり、お座敷遊びをしたり、京都らしい文化を満喫できます。彼女たちのお客さまへの細やかな気配りや相手を立てる接客ぶりは、今の私にもとても勉強になります」
京都ならではの旬の食材を堪能できるのも、このお店に通う理由だ。
「冬ならたっぷりの銀餡がかかった蕪蒸し、それから河豚も楽しみですね。少し前なら松茸と鱧の土瓶蒸し。加茂茄子の田楽や万願寺とうがらしをただ焼いたもの。京野菜はあまり手を加えすぎず、新鮮なものをそのままいただくのが最高のご馳走です。それはいくら物流が整った時代でも、京都でしか味わえない贅沢ではないでしょうか」
季節ごとに変わる部屋のしつらいや器づかいも含めて、非日常の夢の世界に浸れるのが「花郷」の醍醐味だと山村さんは語る。
「お正月には鯛の形の器に盛られたお料理が出されて、それを目にするだけでおめでたい気持ちに。2月なら節分の枡形の器、3月はお雛様の形の陶器など、忘れがちな季節の行事を思い起こさせてくれます」
60年前から変わらぬ味
家族の思い出が詰まった弁当
もう一つ、家族の思い出が詰まった店として挙げていただいたのが「六盛」だ。
「子どもの頃、美術館や動物園がある岡崎に祖父母や母たちと出かけた時、その帰りによく立ち寄ったお店です。『手をけ弁当』という丸い桶に焼き魚や椎茸の含め煮、海老などたくさんの種類の美味しいものを少しずつ詰めたお弁当が看板メニューで、ここでは『あなたはお子さまランチ』と決めつけられるのではなく、大人と同じものをいただけるのが子ども心にうれしかった(笑)」
明治32(1899)年に仕出屋として創業した「六盛」は、昭和41(1966)年に「手をけ弁当」を始めた。縄手三条の桶屋「たる源」の店先で冷奴入れの桶を見て、料理の器として使えないかと考えたことが始まりだという。
「それほどお値段が高くないのもうれしいですね。別添えのご飯は季節に応じて筍ご飯になったりして、それも楽しみ。桶に必ず入っている、お店で作られたうにくらげが子どもの頃から大好きでね。瓶詰めをよく求めますが、あっという間に食べきってしまいます」
アイドリングタイムにカフェ営業もしていて、熱々ふわふわのスフレが名物だ。
「老舗でありながら、新しいことやハイカラなことにも挑戦される。その心意気が京都らしいなぁと思います」

