2018FIFAワールドカップロシア、ポーランド戦までもうすぐ。ポーランド広報文化センター主宰で行われた、ポーランドの食と文化を体験するプロジェクト「EAT Poland」に編集部員が参加してきた。会場は渋谷のレストラン「LAND Seafood」。クオリティフードマガジン『USTA』のエディターや人気のレストラン「Water&Wine」のシェフも参加し、賑やかな宴になった。
EAT Poland プロジェクトを主宰するのは、雑誌『USTA(ウスタ)』を手がける出版社FullMeal。雑誌だけではなく、コンセプトショップやレストランなどを手がけるクリエイター集団だ。
https://www.instagram.com/p/BixK3_ul49v/?taken-by=usta_magazyn
まず『USTA』マガジン編集部のモニカさんによる、ポーランドの食と文化についてのレクチャーから宴がスタート。「東京にはポーランド料理店が一軒もありません」という話にまず驚いた。この東京で食べられないものがあったとは!ファッション撮影でポーランド人のモデルと仕事をした経験は何度もあるけれど、言われてみれば、ポーランドという国についてはよく知らない。
伝統的に敬虔なカトリック教徒が多いポーランドでは、節食期間には肉を食べることを避ける人が多く、その間は学校給食でもレストランのメニューでも、魚を使った料理が多く出されるという(その代わり、節食期間が明ければ肉をたくさん食べるらしい)。しかし海に囲まれた日本と違い、ポーランドで新鮮な魚介を手に入れるのはなかなか難しいこと。そこで重宝されるのがマリネや干物といった保存方法だ。「90年代後半の社会主義の終焉をきっかけに、食生活はどんどん多彩になり、食に対する意識が大きく変わりました」とモニカさんは話す。いまワルシャワのヒップなレストランでは、きまって魚を出すのがトレンドなんだそうだ。日本食も人気で、「Hand Rolls」と呼ばれる長い巻き寿司を片手に、醤油をつけながらぶらぶら散策する姿なんてのも見られるらしい。へえ!
この日料理を作ってくれたのは、ワルシャワから車で2時間ほど走った名水の地、ナウェンチュフにあるレストラン『Water&Wine』のシェフ、マレク・フレシンスキ氏。2018年3月にはAIG PrixとArs Coquinariaで「最も将来性のあるシェフ」として賞を獲得している。
ワイナリーや畑、淡水魚が捕れる池など、食材をみずから確保する独自の場所や手段をたくさん持っているのが「Water&Wine」の特徴。レストランを訪れた人にプレゼントされる美しいビジュアルブックには、彼らの活動の様々な側面が紹介されている。レストランで素晴らしい時間を過ごした後、家に帰ってもお店の世界観を雑誌や本で味わえるというのは面白いアイディア。本の一部を紹介しよう。
「日本とポーランドの食をコラボレートさせました」とマレクさんが作ってくれたのはこの3品で、いずれも、LAND Seafoodで6月29日まで食べることができる。
鯖のマリネ¥1,400 。マレクさんが「ポーランドっぽい」と表現する「ミゼリア」(きゅうりをハーブで和えたもの)を添えて。サワークリームには西洋さわびが効かせてある。
「わぁおいしい」とあちこちで声が挙がった、そばの実のリゾット タコときのこのグリル添え¥1,700 。ひまわりの種をトッピングしていただく。ポーランドではそばの実をよく食べるそう。もろみのようなプチプチとした舌触り。
りんごのケーキ(シャルロトカ)¥800。クリスピー生地とりんごのピュレを盛り合わせた独創的なスタイル。
会場にいた『USTA』のエディターたちに「どの人が編集長?」と質問したら、面白い答えが帰ってきた。「なんというか...編集長はいなくて、みんながそれぞれ対等なエディターなんです」
モニカさん(左)さんとクシシュトフさん。私生活のパートナーでもあるふたり。
『USTA』は伝統的な食の価値に光を当てるいっぽうで、美しいビジュアルと、斬新な食の体験も提案するユニークな雑誌。発行は3か月に1回。誌名に添えられたキャッチコピー”we eat,we talk,we kiss”もとっても素敵だ。創刊は4年前というが、そもそもメンバーはどんなコンセプトで集まったのだろう?
「私たちは様々な分野で20年以上のキャリアがあります。ポーランドでは、食の世界では新しい潮流が起きていて、面白いレストランや、素晴らしい料理人が生まれつつあります。それを雑誌だけではなく色んなイベントやショップやギャラリーといった形で何か提案できるんじゃないかと思って」。コンセプトストア「MYSIA3」も順調だというし、編集作業の合間を縫ってなんとヴィーガンのレストラン『eden bistro』をオープンさせたばかりだという。しかも、今回日本にくる3日前に!
https://www.instagram.com/p/BkFk5O0BAvE/?taken-by=bistro_eden
「色々なキャリアをもったスタッフが集まっているから、それぞれの豊かな個性をジャグリングするように、いろんなことをやっているの。一週間取材ばかりの週もあるし、一週間旅をしていることもある。一週間ずっとデスクワークのときもあるし。でも、ポーランドの食や文化を大切にするというコンセプトだけは見失わないようにしている。それさえブレなければ、問題なし」
いろんなビジネスを展開しつつ、あえて雑誌を創刊した理由はなんだろう?
「どこの国もそうだと思うけど、ポーランドでも今、紙は”嫌われ者”だったりします。ここ数年はとくに、紙とデジタルの間のジレンマにどの出版社も悩んでいる。でもあえて手元に残すことの大切さを考えて、雑誌を出すことに踏み切りました。私たちが大事にしているのはテキストとリサーチの質。これだけは自信があります」
お土産に、ポーランドの魚料理を集めたレシピ本をいただいた。これはなかなか手に入らない。好きなページをいくつか開いてみよう。
日本ではアラ汁か漁師鍋か。
魚の皿、いろいろ。
「魚を食べて健康になろう」って書いてあるんですって。ポーランドの肝っ玉母さんはこんな感じなのかな。
食後には蜂蜜のお酒「ミード」をいただきながら、日本の女性は働き者だとか、築地が移転する前に行けてよかったとか、京都ではサイクリングをしたとか、今回の日本滞在での出来事をあれやこれやと聞かせてもらった。
「ワルシャワに来たら連絡して。面白いところを紹介するね」と言って手渡された名刺には、唇(USTA)のチャーミングなプリントが輝いていた。