2016年より不定期で放送されてきた噂のドラマの最新作が完成! 毎回、気鋭のクリエイターと組み、奇想天外な世界を作り上げている主演の満島ひかりさんに緊急インタビュー。見どころを教えてもらった。
満島ひかりにインタビュー。ドラマ『新!少年探偵団』で魅せる「変幻自在にあそぶ乱歩ワールド」
「明智小五郎になってみたい」。プロデューサーの淵邉恵美さんからの「どんな役をやってみたい?」との質問に、満島さんは冗談まじりにそう答えた。その数年後にスタートした江戸川乱歩の短編をドラマ化する企画は、今回でシリーズ第4弾。イマジネーションと工夫を凝らした、不可思議でおかしみのある作品を生み出している。
「女である私が明智小五郎を演じることの違和感を、隠さず生かして、天でも地でも、光でも闇でも、女でも男でもない〝明智宇宙!〟を合言葉にこれまでやってきました。江戸川乱歩さんの描く物語にある、世にとらわれていない、夢のようなエネルギーがあるからこそ、自由に振舞えているんです」
〝遊び〟の例として、まず衣装を挙げる。新シリーズでは、満島さん演じる明智小五郎はセーラーカラーのスーツをまとう。スタイリスト・皆川bon美絵さんと満島さんとでアイデアを出し合い、仕立ててもらったそうだ。
©︎NHK
「今までのシリーズの明智と違い、今回は少年探偵団の先生でもあるので、柔らかさをプラスしつつも、やっぱり風のようで実態がつかめない存在でいたい。彼を象徴する色を模索し、白にしようと決まってからはトントン拍子に話が進みました。生地の種類や、動いたときの感じ、男っぽさが引き立つボタンも吟味して。新シリーズは、3話を通して同じスーツで、スタイリングで各話の雰囲気を変えています。正統派は、カフスに蝶ネクタイにサスペンダー。中性的なときは、インナーと靴に〈フミカ_ウチダ〉を合わせて攻めた印象に。1シーンだけ不良の格好もするのですが、『不良と言えば背中に刺繡はどう?』と提案してみたら、『それなら〝月が綺麗ですね〟(夏目漱石による〝I LOVE YOU〟の名訳)にしよう』と監督が考えてくれて、素敵な学ランに仕上がりました。登場はわずかでも、手間を惜しまないスタッフの熱量にいつも驚かされて、気持ちもどんどん乗っていきます」
細部の〝遊び〟はヘアメイクも然り。 「手のペイント、顔に描く青い点は前シリーズの名残りですが、また新たに目の下に赤いラインやグリッターの涙が光っていたり、毛先5センチだけカラーリングをしているとか。小さな、視覚を刺激する気分を潜ませています」
ちなみに、この企画でジェンダーを超え続けているのは満島さんだけじゃない。嶋田久作さんもそのひとりだ。
「かつて明智小五郎を演じた経験もある嶋田久作さんは、今回なんと森山未來さんのお母さん役で登場します。女性を演じるときの、淑やかな表情や艶っぽい雰囲気に見とれてしまいます」
1シーズンにつき3話、それぞれ作品ごとに監督が異なり個性を競い合うかのようにクリエイティビティを発揮しているのも、見応えの秘密だ。
「三者三様! 佐藤佐吉監督からは、爆発的な笑いをリクエストされました。俳優もやっている佐吉さんは、演者視点での演出も多くて、面白い冒険をさせてくれます。見た目はハードボイルドですが、ハートがヨーグルトみたいにマイルドなんです(笑)。カルチャーを愛する優しい方でBGMも独特。そして、渋江修平監督は、『二十面相は、似た顔のおじさんが20人いるんだと思うんです』と言い出し、『上から飛んできて〜』とか、ハードルの高いことをさらっと言うので、一瞬、『え?』と戸惑うのですが、やってみたらすごくいい。仕上がりもいつも軽さがあってかわいいんです。クリエイションの幅の広さと大胆さで、想像をひょいっと超えちゃうんですよ。それから、初めてご一緒した古屋蔵人監督の抱く明智像は、ヒーローでした。アメ車で夜の街をブーブーとふかして、その煙の中で演じたり。〝男のロマン〟なシーンが多くて、プランが綿密で、とにかくおしゃれ。古屋組のスタッフは、気心が知れていて仲良しで、ハッピーな空気に包まれていました。全シリーズ通して美術を担当している福井大さんの遊び心も毎回あっぱれで必見です」
全員が持てる力を惜しげもなく投入する乱歩シリーズ。このドラマを通して満島さんは再認識している。 「ああ、こういうのに会いたかった! チームでの作品づくりが好きで好きで思いが募って、楽しすぎる気持ちの地団駄を踏みたくなる感じです(笑)」
©︎NHK
ドラマがもっと
面白くなる楽屋話
1. 過去のシリーズ
江戸川乱歩の短編を30分1話完結、1シーズンにつき3話の構成で描く。制作スタッフは、ドラマ専門ではなくドキュメンタリーや子ども番組のチームで、いい意味で既成概念に縛られない。なんと、撮影期間は各回たった3日間!「現場はアドリブの連続です。ドリフターズの仲本工事さんがズッコケたときに、あまりに自然で撮影が中断。すると『わざとだよ』(笑)。どこかで自由に動いて良さそうな現場だぞ、と皆さん察するのかも。演技というよりセッションしている感覚です」(満島さん)
シリーズⅠ
「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」
共演: 菅田将暉、篠原信一、松永天馬、嶋田久作ほか
シリーズⅡ
「何者」「黒手組」「人間椅子」
共演: 田中圭、ミッツ・マングローブ、矢部太郎、つのだ☆ひろ、若葉竜也ほか
シリーズⅢ
「お勢登場」「算盤が恋を語る話」「人でなしの恋」
共演: 宮藤官九郎、岩井勇気、高良健吾ほか
2. こだわりの衣装
たとえばシリーズⅡの「人間椅子」。満島さんは、椅子の下で息を潜めて生きる男に慕われる人妻を演じ、〈クロエ〉の白いオーガンジーの贅沢なドレスをまとい、女性の中にある純真さと妖艶な部分を見事に表現。演技の力はもちろん、服が放つインパクトも圧巻だ。「シリーズⅢまでの衣装担当はBabymixさん。審美眼を持つアイデアマンで、最高の相棒で、学びの連続でした。提案してくれた〝明智宇宙〟はチームの核になっています。今回の衣装担当、皆川bon美絵さんはテーラリングの知識が豊富で、登場する帽子たちも〈キジマタカユキ〉にお願い。手仕事のアイデアを生み出すバイタリティとまっすぐ実現していく姿に胸を打たれます」(満島さん)
3. 3人の演出家
演出陣は、ドラマを主戦場としていないクリエイターばかり。映画監督・脚本家で俳優の佐藤佐吉氏と、CGを駆使する映像ディレクターの渋江修平氏は、シリーズⅠより続投。満島さん曰く「〝人情愛情の佐吉〟が〝イマジネーションおばけの渋江〟を追うところに、毎回違った才能を持つゲスト監督を迎える形。それぞれの持ち味が爆発しているので、同じシリーズでありながら全然違う作品に関わっている気分に」。初参加の古屋蔵人氏も映像ディレクターでありながら編集者という別の顔を持つ。
こちらも必見!!
南島原市ムービー
満島さんが主演する長崎県南島原市の観光PR動画が話題だ。これ、乱歩ドラマのスタッフが思いっきり関わっている。「渋江さんから、一般公募にエントリーするけど、出ませんか?と連絡があり」(満島さん)、審査を勝ち抜き完成した。架空の情報番組と、その間を埋める虚構のCMも制作。満島さんは天草四郎をはじめ1人6役のフル出演!
衣装: Babymix、メイク: MICHIRU、ヘア: 新宮利彦と、モード的にも豪華な布陣。少人数の精鋭たちでの制作! 約26分
シリーズ江戸川乱歩短編集Ⅳ 『新!少年探偵団』
2021年3月23日(火)から3夜連続放送予定
NHK BSプレミアムにて19:00〜
Text&Edit: Mako Matsuoka