国内最大級の旗艦店となる「パラッツォ フェンディ 表参道」がオープン。その記念に来日したデルフィナに、じっくりとインタビューしました。 〈フェンディ〉のジュエリー アーティスティック ディレクターを務める彼女の強く洗練されたクリエイションの背景にあるものとは?
ジュエリーに“自由”をもたらす創業家4代目 デルフィナ・デレトレズ・フェンディにインタビュー
2月11日にオープンした「パラッツォ フェンディ 表参道」。ミンクファーの椅子が並ぶ優美なジュエリーバーへ、デルフィナ・デレトレズ・フェンディ(Delfina Delettrez Fendi)が迎え入れてくれた。目の下に大胆にひいたグリーンのアイライナーがクールな印象を放つ。新しいストアの印象を聞いてみた。
「建築物として美しく、数ある店舗の中でも一番のお気に入りになりました。私がもっとも長い時間を過ごすローマのイタリア文明宮を感じられる空間で、新しい家が東京にできたみたいな気分(笑)。日本のスチールとイタリアの大理石のモダンな融合は、フェンディが大切にする“美しいクラッシュ”のアイデアを体現していると思う。特に好きなのは、1階のキッズコレクションと、“フェンディ カーサ”のスペース。幼い頃から〝FF〟ロゴに囲まれて育ったから、テーブルウェアやテディベアなどさまざまなアイテムに広がっているのが、とてもうれしいんです」
実は、彼女にとって東京は思い入れのある特別な街だという。
「20代の頃、自分だけで飛行機に乗ってどこかへ行く経験がしてみたくて。初めての一人旅が日本だったんです。言葉もわからないし寂しく感じることもあったけど、新しい友達ができたり、素晴らしい数日間だった!実はまだ東京しか訪れたことがないから、次は京都にも行ってみたい。あと、日本のスキー場はライトがあって、夜もスキーができるんでしょう?猿がいる温泉や富士山…これから行ってみたいところがたくさん!」
自身の名を冠したブランドを開始して16年。ジュエリーデザイナーを志したのはいつなのだろうか?
「18歳の時です。自分の好みが反映されたデザインが少ないと感じて、じゃあ自分で作ってしまおう、と。フェンディにとっても未開拓のカテゴリーだったから、『これが自分の進むべき道なのかな』って。こんなに小さいものが、力強いメッセージを発信できる。その静かなパワーに魅了されたのです」
自身のブランドを継続しながら、2021年秋冬シーズンから〈フェンディ〉で現職に就任。以来、数々のアイコニックなピースを生み出してきた。中でも人気を集めるのがシングルイヤリング。耳を大きなFが覆うイヤカフや、「FF」ロゴをオーバル型に再解釈した〈フェンディ オーロック〉など、“イヤリングはペアでつけるもの”という常識を覆すアイデアは、女性の共感を呼んだ。
「耳元のスタイリングに、自由をもたらすことができていたら光栄です。組み合わせを選ぶ楽しみがあるし、会話のきっかけにもなる。私も最初に片耳ピアスをつけ始めた頃は、『ひとつ落としてるよ!』って言われる経験がありました(笑)。誰かから贈られるものではなく、自ら手に入れるようになったからこそ、どんなリングやブレスレットをつけているか。その人の手元は、時に言葉以上に内面を物語るのだと思います」
デルフィナがこの業界に足を踏み入れた時から実現したいのは、ジュエリーという言葉がまとう“贅沢”や“豪華”なイメージを払拭すること。
「クリエイションのプロセスにおいては最大のケアを注ぐ一方で、身につける時はかしこまらずに気軽に扱ってほしい。私はスナックのようにジュエリーを毎日バッグの中に入れて持ち運んでいるんです。その瞬間の自分のムードを体現するものだから、家のクローゼットに大切にしまうのではなく、もっと思い思いに楽しんでもらえたら」
祖母のアンナを含む創業家の5人姉妹、そして〈フェンディ〉の現アクセサリー&メンズウェア アーティスティック ディレクターを務める母シルヴィアなど、身のまわりにはいつも、パワフルに働く女性たちがいた。
「彼女たちはまさに“フェンディウーマン”を体現する存在。強く知的でアイコニックで、アイロニーも持ちあわせている。2年後に100周年を迎えるこのブランドが今日もモダンに感じるのは、その伝統が受け継がれているから。私が育った環境はとても民主的で、『ファッションの道に進むべき』と言われることもなかったし、自分で選ぶことの大切さを子どもの頃から教えられました。幼少期から家庭と仕事が隣り合わせなのが当たり前で、日曜日のファミリーランチがビジネス会議になることも。年齢は関係なく、子どもでも発言することが求められていました。そういった対話へのドアが開かれていたのは偶然ではなく、親からのギフトだったのだと今になって感謝しています」
クリエイティブな一族には、やはり特別な教えがあるようだ。
「“健康的な不満足さ”を抱えること。何かを成し遂げたと思うのではなく、常に、もっと深く、多くを学びにいく姿勢。そして目に見える美的な価値だけでなく、誰が作ったのか?なぜ?と、物事の裏側に興味を持ち続ける。この教えは、よいものを作るモチベーションにもつながっています」
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デルフィナ・デレトレズ・フェンディ
1987年生まれ。フェンディ家の4代目であり、母親はアーティスティック ディレクターのシルヴィア・フェンディ。ローマとブラジルで育ち、2007年にジュエリーブランド〈デルフィナ デレトレズ〉を設立。21-22年秋冬にフェンディのジュエリー アーティスティック ディレクターに就任。