エンケンさんはふと取材用のボイスレコーダーに目を留めた。
「これ、何時間くらい録音できる?」
あ、わりと何時間でもイケますよ。
「そうなんだ。オレいま日本史を勉強してるのね。学生の頃、全然勉強しなかったからまったくわからなくて。歴史の本を読んではいるけど、日本史に詳しい中学の同級生に講義してもらって録音するために探してるところなんだ。反復して聴きたいからね。でも、自分から勉強したいだなんて53歳にして初めて思った。人より40年遅れてるんだけどね(笑)」
名バイプレイヤー、エンケンこと遠藤憲一さん。話題作には必ずやこの人の姿がある、というか、CMやナレーションを含めれば、エンケンさんの姿を観ない日、声を聴かない日はないといっても過言じゃなく。
「全然器用じゃないよ。下準備をすごくするし、隙間の時間に台詞を覚えるなんてことも絶対にできないし。入り込んでしまわないとダメな人間。日本史の勉強と一緒。要は神経質なんです。適当にやるってことができない。どんなぶっとんだ役であれなんであれ、手を抜くことを知らない。だから最後はクッタクタになる。それが自分のいいところであり、キライなところでもあるんです」
身長182cm。長い手足はスーツがよく似合う。トレードマークのオールバックはどんなときも必ず自分でセット。そしてなにより印象的なのは〝目〟だ。エンケンさんの〝物語る目〟は観る者をドラマの世界にグイグイと引き込むのだ。
「最近はお父さん役も来るようになって。そうすると邪魔をするんです、この目が。ほっとくとギラついたものが出ちゃうから。自分を消す、柔らかくするのはもう少し身につけたほうがいいなと思う。圧倒的にギラついてる役が多いんだけどね(笑)」