『ブルックリン』(15)で知られるジョン・クローリーが監督を手がけ、A24が北米配給権を獲得した映画『We Live in Time この時を生きて』(2025年6月6日公開)。主演のフローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールドがメリーゴーラウンドに乗って笑い合うファーストビジュアルが世界中に拡散され、バイラルに。彼らの手前にいたインパクトのある馬の表情がミーム化したのだ。予期せぬユーモアから始まったプロモーションは、悲しみや喜び、最高と最悪といった相反する感情や出来事が時間軸とともに交錯する本作の世界観、そして、主演の二人の見事なケミストリーとポジティブに呼応するかたちとなった。「個」が「家族」になるとき、私たちはそれぞれにどう生きるのか。癌で死にゆく妻の物語としてではなく、普遍的な人生の問いや選択の物語を描いた本作について、監督自らが語る。
『We Live in Time この時を生きて』監督ジョン・クローリーにインタビュー
「私たちのような普通の人々が、自分自身を見出せるような映画にしたかった」


──人生のさまざまな出来事や感情を縫い合わせた、パッチワーク・キルトのような作品だなと感じました。原作となったニック・ペインの脚本を読んで映画化を決意したと伺いましたが、あなたは彼の戯曲を2013年に演出してもいますね。ニックの書く物語のどのような点に惹かれたのでしょうか?
彼は登場人物や、人間の弱さを描いたストーリーに対する鋭い洞察力を持っています。そして、感情を恐れず、信じられないほど思いやりのある作家でもあります。彼は政治性を帯びた小さな物語を書いているなと。つまり、人々が日常生活をどのように送ろうとしているのか、私たちが住む世界の構造がそれを助けるのか、それとも妨げるのか、というようなことです。
──今回の作品の脚本を読んで、どんなふうに感じました?
現代の恋愛関係がどのようなものかを描こうとする、とても感動的な試みがありました。そして、その中にはある種の緊張関係が当然のものとして存在しています。たとえばキャリアと家庭の間での葛藤のような、もしかすると決して折り合いのつかないような緊張感です。さらにそこに、二人が一緒に過ごせる時間が限られているという制約が加わると、その時間をどう使うのが最善なのかという、とても難しい問いが浮かび上がってくる。でもそれこそが、ドラマの本質なんですよね。もちろん、物語の癌の要素は、あまりにも悲しすぎると感じました。とても感動的であると同時に、これは多くの人にとってかなり重たい内容だなとも思ったんです。ただ、脚本の中にあるユーモアや、少しばかばかしいような状況のおかげで、こうやって真逆のトーンを両立させているんだなと感じた。先ほど、「パッチワーク・キルトのよう」と素敵に表現してくださいましたが、洗練された構成は遊び心があって、自分はすごく楽しいと思えたんです。
──アルムートとトビアスというキャラクターがとても魅力的で、従来の男らしさや女らしさの概念を超えた強さを持っていて、同時に、私たちと同じ、普通の人間であると感じさせる二人でした。キャラクターを描くうえで、達成したいと思っていたことはありますか?
まさに今あなたが言ったことが、この映画で実現したいと思っていたことです。つまり、人々が映画の中に自分自身を見出せるようにしたかった。なぜなら、物語はとてもシンプルで、ある意味、最も古くから語られてきたボーイミーツガールな物語の一つだからです。女と男が出会い、恋に落ち、うまくいくかもしれないと思った矢先、ある出来事が起こって心は打ち砕かれ、もう一緒にはいられなくなる。そういう話なので。でも、すごく新鮮だと感じたのは、ニックが書いた脚本と私たちがここでつくろうとした世界がロンドンのとても華やかな場所ではなく、現実味のある場所であることでした。ロマンチック・コメディの世界ではない。そして、考えたのは、愛と死、キャリアのこと、もしかしたら子どもを持つかどうか、あるいはすでにいる場合にどう育てるか。そういったことが、私たちのような普通の人々にとって最も重要で大きな問いなんじゃないか、ということでした。ただ、人々がこの映画を愛し、感動し、笑ってくれて、同時に自分を重ねてくれることを望んでいました。
Text&Edit_Tomoko Ogawa