2007年に公開され、現在も多くの人を惹きつける、新海誠監督のアニメーション映画『秒速5センチメートル』。その実写映画の監督を務めたのが、奥山由之だ。主題歌を担当した米津玄師とは「感電」「KICK BACK」のミュージックビデオや、アーティスト写真の撮影で、数年前から協働してきた。『秒速5センチメートル』の主題歌「1991」(ナインティーンナインティワン)を書き下ろした経緯や、ものづくりと真摯に向き合う同い年だから共感する創作の危機とは。#奥山由之と映画『秒速5センチメートル』の世界
奥山由之×米津玄師 1991年生まれの“同志”が語る、刺激し合うクリエイション vol.1
二人の出会い、映画『秒速5センチメートル』の主題歌のこと

──今回、奥山さんにとって初めての大型長編商業映画を監督されるにあたり、主題歌を米津さんにお願いされたのはなぜですか?
奥山由之(以下奥山) 僕としてはこの作品を、新しくもあり、懐かしくもある佇まいにしたいと思っていました。20年近く前の原作を今回若いチームで作るとき、今の米津さんの視点で『秒速5センチメートル』の主題歌を書き下ろしていただくことで、新しさと懐かしさが混在していくのではないかなと。なにより僕にとっては、米津さんから本当にたくさんの刺激を受けてきました。少しおこがましいですけど、同志のように感じています。それこそ、同じ年に生まれて、同じ時代にものづくりを始めて。今回の作品以外でも、今までご一緒したとき、普段から会話をしているわけではないのに、僕が思っていることと、米津さんが思っていることを話し合うと、同じ視座を持って創作をしている感覚があったので、誰に依頼しよう?と考える間もなく、米津さんにこの作品を解釈してもらった上で楽曲を書いていただきたいなと、お願いしました。
米津玄師(以下米津) 奥山さんとは「感電」のミュージックビデオを撮ったときに初めてお会いして。最初の打ち合わせでも同い年の話になったのを覚えています。そのときからなんかピンと来るというか、同じようなものを見てきた人なんじゃないかという感じがすごくあって。「感電」と「KICK BACK」を監督していただきましたが、すごい才能というか、才覚。あと執念と熱意のある人なのがよくわかりました。そんな一緒に仕事をしていた人が『秒速5センチメートル』の実写映画を撮ると。その主題歌の話が自分に来るというのは、これ以上なくうれしい出来事といいますか。中学生の頃に原作の映画を観て、それが新海誠さんの映画に初めて触れる体験だったのですが、すごく衝撃を受けて。背景美術も含めて明確に今まで観たことがない、すごいものを観たなぁっていう感覚がありました。修学旅行に原作の小説を持っていって、相部屋の隅っこで一人その本を読んでいたのを覚えているんですよね。なので、自分の人生を振り返ってみたときにも、この映画はすごく重要な位置にあると思っていて。そういったことも含めていろいろなものがつながって今回の主題歌にたどり着いたとすると、長く音楽をやってきてよかったなと思えるような体験でしたね。
──主題歌発表にあたり、「半生を振り返るような曲」と米津さんがコメントされていたのが印象的でした。お二人の生まれ年でもあり、劇中のキーワードでもある「1991」がタイトルとなっています。楽曲制作はどのタイミングで始められたのですか?
米津 最初に奥山さんと打ち合わせをして、そのすぐ後に脚本をいただきました。そこから試行錯誤というか、こういうのがいいんじゃないか、ああいうのがいいんじゃないか、というのが通り過ぎていき。方向性が明確になったのは、ラッシュ映像をいただいた後ですね。完成形ではないんだけれども、あらかた出来上がった映像を観て、それを目掛けて作っていったという感じかもしれないです。
──その映像をご覧になったとき、どう感じられましたか?
米津 あまり強い表現を取りたくないのですが、俺のための映画なんじゃないかなって思うようなところがあって。まず、MVなり写真なりでご一緒したときに感じていた奥山さんの熱意というか、自分が撮りたいものを自分のフィルターを通して映し出そうという頭抜けた執念というか、そういうものが最初から最後までずっと込められている。こう言うと暑苦しく聞こえるかもしれないですけど、映画自体はすごく優しいというか、静謐な部分があるんだけれど、美しいものを撮ろうというその執念のようなものがにじんで見える。すごい映画だなと思ったんですよね。それが大前提としてあって、中でも主人公の貴樹の人間性にあまりにも見覚えがありすぎるというか。映画の内容にはあまり触れない方がいいと思うんですけど、大人になった貴樹が付き合っている彼女と一緒に本屋に行ったとき、彼女が「あっち見てくる」と言ったら、「ゆっくり見ていいからね」って言うシーンがあり。ああいった一言、すっごい俺言うなって(笑)。部屋で一緒にいるときに間接的に苦言を呈される場面では、台詞の一言一句が全部自分に刺さったんですよね。それが抜けなくなるような感覚になって。その感覚のまま自分がこの映画に曲を作るとなると、どうしても自分の半生を振り返るようなニュアンスが入ってこざるを得なかったんです。
奥山 初めて米津さんと打ち合わせをしたときに、原作の小説を中学のときに読みましたとうかがって、すごくしっくりきたんです。米津さんにお願いしてよかったなと思いましたし、さっきおっしゃったように、自分のために作られた映画のように感じるというのは、まさに目指していたところでもあるので。やっぱり『秒速5センチメートル』という物語自体が、客観的に見たら些細と思われるようなことでも、本人の中ではものすごく大事な不安や焦燥感を掘り下げていった先に普遍が広がっているというか。一個人の微細な部分を描くからこそ、自分のことのようにみんなが感じられる広いところに到達する。その私小説的な感触を映画に宿したかったので、米津さんがそういうふうに観てくれたというのは、とてもうれしかったです。映画を観てくれる人にとっても、自分の物語のようだと思ってもらえるんじゃないかな、そうだといいなと思います。
Photo_Teruo Horikoshi (TRON) Styling_Masataka Hattori (yonezu) Hair_HORI (BE NATURAL) Text_Mika Koyanagi
