全寮制の女子校を舞台に、ある完璧に見えた少女の突然の死から、見えることと存在することの境界で揺れ動く少女たちを描く、坂本悠花里の長篇ファンタジー映画『白の花実』（12月26日公開）。周囲になじめず転校を繰り返してきた杏菜を美絽が、美しく完璧で誰からも好かれるルームメイトの莉花を蒼戸虹子が、莉花の幼なじみ・栞を池端杏慈が演じる。登場人物と同じ10代を生きる３人が、役を通して見つめたものとは？
💭INTERVIEW
映画『白の花実』美絽、池端杏慈、蒼戸虹子にインタビュー！
見えないものに触れたとき、少女たちの心は揺れる
──映画 『白の花実』をキーワードで表すとしたら、まず何を思い浮かべますか？
美絽：少女たちの葛藤とか？
蒼戸：私は「わからない」かな。人の気持ち、自分の気持ちもはっきりわからない中でも、どこか希望を感じられる映画かなと思っているので。
池端：私は「見えないものの美しさと奇妙さ」がキーワードかな。人間関係においても、全部わかっているつもりでいても、全てが見えているわけじゃない。自分が見ていたものとの「違い」というのも、キーワードかなと思っています。
──10代の揺らぎの渦中にいる登場人物たちを演じて、ご自身のパーソナルな部分と共鳴した部分はありましたか？
池端：私が演じた栞には大好きな幼なじみの莉花がいて、毎日そばにいてくれた、当たり前だった存在が急にいなくなってしまうという経験がどういうものなのか、正直最初はわからなかったんです。でも、栞の感情をどう表現していくかを坂本監督と意見交換をして、「莉花への喪失感や愛情をセリフで出してもいいかも」と言ってくださったこともあって、大好きな友達を思う気持ちは、自分でしっかり噛み砕いて演じることができたのかなと思います。あと、栞は大人っぽくて現実的な性格なんですが、私もどちらかといえば現実的な部分があるので、そこは似ているというか、共感できました。
美絽：学校があまり好きじゃないみたいなところが杏菜にはあると思うんですけど、私も中学生くらいの頃にそんなふうに感じる時期があったんですよね。心強そうに見えるけど、ちゃんと悩んでたり、葛藤があったりするところは共感できます。
蒼戸：莉花は、周りから見られている姿と実際に自分が抱えているもののギャップに戸惑い、自分がわからなくなってしまったのかな、と思っていて。普段過ごしている中でも、自分もよくわからない感情を抱えることはありますし、そういうちょっとザワザワしたものにはすごく共感するところがありました。
──この作品を通して、世の中の見え方が変わった部分はありましたか？
美絽：私は別れというものをあまり良くないものだとずっと思っていたんですけど、もちろんあまり良くない部分はあったとしても、自分を成長させるものでもあるんだと感じて。それは、この作品を通して気づけたことかなと思います。
池端：普段見えてるものが全てじゃないんだなと。映画の中でそれぞれが抱えている悩みを実際の現実世界に置き換えたときに、みんな家族だったり友達だったりとそういう悩みについて話しているとしても、本当のことは当人にしかわからないので、こうなんだろうなと勝手に想像したり、決めつけるというよりは、ちゃんとその人自身のことを知ってからがスタートだなと考えるようになったんです。ここからまたいろんな人と出会って関わっていく中で、すごく大事にしたい考えだなと感じています。
蒼戸：私は莉花を演じて、自分の感情と向き合うということが大事なのかなと思うようになりました。そうすることで、本当に自分が感じていたことや考えていたことが初めてわかることもあるなと。少し見える世界が広がって、深まったという感覚があるので、そこはこれからも大事にしていきたいなと思っています。
──これまで自分の脆さや弱さが個性や力になったと実感した体験はありますか？
蒼戸：この仕事を始めてから自分の感情と向き合うようになったんですけど、その中で自分の弱さやダメなところを改めて感じて……。まずはそれを受け入れるところから始めて一個一個乗り越えて、力にしていきたいと思っています。
池端：私もこのお仕事を始めてから、すごくポジティブ思考になったと感じていて。いろんなオーディションやレッスンを受けたり、現場に入ったりを経験していくうちに、やっぱり悔しいことはどうしてもたくさん出てくるんですよね。でも、私はすごく負けず嫌いなので、「ここでダメだったからもうダメだ」と落ち込むよりは、「もっと自分は頑張れるからもっとやろう」という気持ちにどんどんなっていって。そうして悔しさをバネというか強みに変えられたから、明るい気持ちで今やっていられるのかなと思います。
美絽：私は結構考え過ぎてしまう性格で、すごく悩んでしまうタイプなので、その時々のベストを尽くしてはいても、後から思うと「もっとできたな」と感じてしまうことがあって。そういうときこそ、悔しさや弱さ、いろんな感情を経験できてるということなのかなと思いますし、それはこの仕事をしていく上で力になるのかなとも思っています。
──今、自分が生きている10代の瞬間を、どう捉えていますか？
池端：全部、全力という感じかなと。10代って、すべての物事に対してやる気で満ち溢れていて、学校でも、お仕事をしてるときもそのキラキラしたエネルギーが消えないし、ずっと目が輝いているのって、すごいことだと思っています。同世代の子たちと一緒に話してても、そういう部分がすごく愛おしいんですよね。
蒼戸：「10代のこの瞬間は今しかないから」とよく人から言われるので、「この瞬間を無駄にしないようにしよう」と考えるようになりました。一瞬一瞬を大事にしていきたいなと思っています。
美絽：私は、アンバランスですかね。杏慈が言ったように、すごくエネルギーがあるときもあれば、いろんなことを考えてしまって、悩んでしまう時期もありますし。理想の自分とのギャップがあって悩んだとも思うので。
──早く抜けたいですか？それともまだ浸かってたいですか？
美絽：まだ浸かってたい。
池端：私も。
蒼戸：私も学びたいこと、経験していきたいことがまだたくさんあるので、浸かっていたいですね。
──みなさんは、大人と子どもの境界線ってあると思いますか？もしあるとしたら、どこに？
美絽：どこなんだろう？ないと思います。本当に子どもっぽい大人もいれば、大人っぽい子どももいますし。
蒼戸：境界線ではなくて、グラデーションなのかなと。その中で大人っぽいところが増えたり、子どもの割合が増えたり、そういうイメージです。
池端：もし境界線をつけるとしたら、自分の感情をちゃんと自分で理解できるということなのかなと思います。一人で何でもできて、自分の行動をしっかり管理できる、責任が取れるところに立ったときは、もう大人だなと考えています。まだ私たちは誰かに守られてる立場で、支えられてここまで来れています。でも、一人で何でもできる人ってなかなかいないとも思ったりしていて。だから、確かにグラデーションですよね。
──見えるものでも見えないものでも、今、みなさんが一番エネルギーをもらえるものって何ですか？
美絽：甘いものがすごく好きなので、甘いものを食べるとエネルギーが湧きます。あと、見えないものだと、未来ですね。これから先どうなっていくのかわからないので、もちろん不安もあるんですけど、楽しみでもあって。だから、未来を考えるとワクワクして元気が出ます。
蒼戸：私はギターを弾くんですけど、最近友達とバンドっぽいことをしていて。それがすごく楽しくて、一番エネルギーをもらえる時間です。
池端：私はライブが一番の活力ですね。この夏もライブに行って、号泣したりしました。
──最後に、10代を描いた個人的にお気に入りの映画を教えてください。
池端：『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』（23）というタイの双子の姉妹監督の長編初映画があって。双子のユーとミーっていう女の子がいて、ドリンクバーや映画のチケットも一卵性双生児の双子であるメリットを最大限に使ってこれまで生活してきた二人が、ある日同じ人を好きになり、初恋という分割できないものに出会う。そこからの二人の生き方を描いた作品なんです。タイの俳優さんがユーとミーを一人二役で見事に演じていて、泣ける部分もありましたし、本当に思いっきり10代の青春を生きる映画だったので、すごくお気に入りです。
美絽：『リンダ リンダ リンダ』（05）を虹子におすすめしてもらって観たんですけど、自分の理想の、憧れの高校生活が全部詰まってました。10代を描いたすごく好きな映画ですね。
蒼戸：私は、『ゴーストワールド』（01）です。周りからは生きづらいと思われたり、理解されづらかったりする、私たちと同い年くらいの高校生の二人が、そのままの自分で生きていこうとする姿や、社会の中で大人になろうとする姿を、自分と重ねながら観ました。ファッションや世界観もすごく好きです。
Loading...
ℹ️
白の花実
周囲に馴染めず、転校を繰り返す杏菜が、新たな寄宿学校で出会ったのは、美しく完璧な少女・莉花。 しかし、莉花は突然、命を絶ってしまう。一冊の「日記」に残された彼女の秘密に触れた杏菜と少女たちは揺さぶられ、初めて“自分”と向き合い始める。やがて日記から現れた“鬼火”のような魂が、杏菜の心に入り込み、予想もつかない行動へと踏み出す……。
監督・脚本・編集_坂本 悠花里
キャスト_美絽、池端杏慈、蒼戸虹子、河井青葉、岩瀬亮、山村崇子、永野宗典、田中佐季、伊藤歩、吉原光夫、門脇麦ほか
製作・配給_ビターズ・エンド
制作プロダクション_キアロスクロ
2025年／日本／カラー／DCP／5.1ch／ビスタ／110分
©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO
12月26日（金） 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
🗣️
美絽
2008年生まれ、東京都出身。スカウトを機にデビューし、サントリー天然水「スパークリングレモン」などの多数のCMや、BUMP OF CHICKENの「Gravity」、 ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「星の夜、ひかりの街（feat.Rachel&OMSB）」など話題のMVに出演。その瑞々しい演技と独特な存在感で注目を集めた。モデルとして雑誌や多彩な広告に数多く出演。本作が映画初出演にして初主演となる。
🗣️
池端 杏慈
2007年生まれ、東京都出身。2021年にファッション誌「ニコラ」のオーディションでグランプリを獲得し、専属モデルを務めた。2023年には、ポカリスエットのCMキャラクターに抜擢され、その後2025年には、ゼクシィ 15代目CMガール、第104回全国高校サッカー選手権大会応援マネージャーに起用され、注目を集める。ドラに起用され、注目を集める。ドラマ「オールドルーキー」（22/TBS）で俳優デビューを果たし、映画『矢野くんの普通の日々』（24/新城毅彦監督）で、映画初出演。『ストロベリームーン』（25/酒井麻衣監督）では、主人公の親友・高遠麗を演じた。
🗣️
蒼戸 虹子
2009年生まれ、ハワイ出身。モデルとして活動後、2024年より俳優活動を開始。シリーズ横溝正史短編集Ⅳ「悪魔の降誕祭」（24/NHKBS）でデビュー後、「DOPE 麻薬取締部特捜課」（25/TBS）では主人公の妹・結衣役を演じ、連続ドラマ初出演を果たす。RADWIMPS「正解」MVも話題になるなど、多岐にわたり活躍。
Photo_Yoko Kusano Styling_ Naoto Ishikawa （dust free production_Miro and Ikehata）, Shoh Sasaki（Aoto） Hair&Make-up_ Yuka Toyama（Miro）,Eri Ito（Ikehata）, Naoki Ishikawa（Aoto） Edit&Text_Tomoko Ogawa
