清少納言の頃、月と蛍が照らした青の世界に、 いつからか無数の街明かりが輝いている。 一番星よりも早く艷やかな赤が灯る、東京の夜へ。
SUMMER NIGHT TOKYO GUIDE 夏は夜の喫茶店。
夜の隙間を埋める。
家と外とをつなぐ曖昧な夜を、多少の猥雑さやノイズを吸収して浄化する、避暑地のような〝喫茶店〟が歓迎してくれる。それは、純喫茶でもカフェでも、バーでも不十分な気がするのだ。
新宿にはいくつか好きな店があるけれど、なかでも珈琲貴族エジンバラは格別だ。我々は敬意を込めて、ここを「貴族」と呼んでいる。一見なんてことなく見えるのに、その冠にふさわしい時間とサービス。入店時にそっと、3時間に1度のオーダーを促されるのも、「ずっと居てもいいよ」の幸せな合図。電源もWi-Fiもある。しかも、24時間やっている!名物のホット・カフェオーレは、すごく高い位置からテーブルのカップに注いでくれるパフォーマンスが、高貴な気分にさせてくれる。けれど夏は、冷たいアイスにしようかな。明るい新宿の夜をバックに、極細のポッキーが鋭角に刺さったその姿は、最高にカッコ良くて心ときめくのだ。歌舞伎町にオープンして40年。存在は知りつつも、3年前に三丁目に移転する最近まで行かなかったなんて、今考えれば残念でならない。コーヒーには通常の貴族ブレンドの他に、3000円のロイヤルブレンドという謎の超高級メニューもあって、いつか貴族でこれを頼むのが夢だ。
「珈琲貴族エジンバラ」新宿バルト9の目の前。キリッとした蝶ネクタイ姿の店員さんたちによる、24時間営業と思えないホスピタリティに感動する。SF、落語、映画関連の本を集めた本棚のセレクトもいちいち素晴らしい。アイスカフェオーレ ¥900。
住: 東京都新宿区新宿3-2-4 新宿M&Eスクエアビル2F
☎: 03-5379-2822
営: 24時間
休: 無休
そして東の浅草には、真っ暗な住宅街で、朝は9時、夜中は4時まで営業する稀有な喫茶店、ロッジ赤石がある。深夜、山で遭難しかかった山岳クルーの前に突如として姿を現す救いの山小屋のように、漆黒の闇のなか、とにかく眩しく輝いている。なぜ夜中までやっているかって、「ここは花柳界だから」と何の疑問もなく店主は言うけど、遊郭なき21世紀、浅草で深夜営業している喫茶店なんてそうそうない。しかも選択肢は、カツ丼からうどん、エビサンド、ミルクシェイク、水割りと、とにかく幅広い。夕食はとっくに終えていたけど、コーヒー代わりに、ハイボールとナポリタンを頼んだ。短き夜の、名残惜しさに。
「ロッジ赤石」創業から45年。店名は現在2代目の店主のご実家の長野県、赤石岳から。メニューには、洋食、和食、軽食からデザートまで。焼酎だってある。エビフライやエビサンド、カツカレーも人気。ナポリタンスパゲッティー ¥800。
住: 東京都台東区浅草3-8-4
☎: 03-3875-1688
営: 9:00〜翌4:00(日祝〜翌1:00)
休: 月
Photo: Masayuki Nakaya Edit & Text: Asuka Ochi