清少納言の頃、月と蛍が照らした青の世界に、 いつからか無数の街明かりが輝いている。 一番星よりも早く艷やかな赤が灯る、東京の夜へ。
SUMMER NIGHT TOKYO GUIDE 夏は夜の図書館。

静寂に寄り添う。
人もまばらになった日比谷公園をくぐり、夜の図書館にたどり着く。噴水を横目に街灯を数えながら緑をかき分けて進み、心が沈まってきた頃に、ページを捲る音も、ひそひそ話すらも躊躇する心地よい静寂に迎えられる。平日は夜10時までやっている、ここは大人の図書館だ。
日比谷図書文化館は、くすの木の向こうに、眩しく〝三角〟に輝いている。建物が鋭角な三角形なのは、もともとの敷地の形に起因しているというが、なんだか攻めててカッコいい。発案は、石川啄木を世に初めて紹介した歌人で国語学者の土岐善麿と聞く。開館は1908年。初代図書館は東京大空襲で焼失するも、今の三角にも60年以上の歴史がある。建物の周囲は、緑を望む縁側のような読書スペースなどがぐるりと囲むが、かつてはこのすべての窓からの光を障子が受け止めていたというから素敵だ。場所柄もあってここでは、ビジネス、アート、江戸や東京などの地域に特化した働く大人のための蔵書を多くそろえている。閃きが欲しくてふらりと立ち寄った日、夏の夜をテーマにした本棚をみつけた。
「日比谷図書文化館」2011年より都立から千代田区立となり、ミュージアム、カレッジなどが一体となった複合文化施設に。さまざまな種類の読書席やPC席、カフェも備え、仕事帰りの大人たちが集う空間に。入館は誰でも無料。
住: 東京都千代田区日比谷公園1-4
☎: 03-3502-3340
営: 10:00〜22:00(土〜19:00、日祝〜17:00)
休: 第3月
ひんやりとクーラーが程よく効いた図書館で読書に没頭した後は、日比谷通りを少しだけ歩いて帰ろうか。皇居の夜はいつも、息を飲むほど美しい。海外から帰ってきて東京駅に降り立った時なんかは特に、あまりにも綺麗すぎる景色に感動してしまう。夜のお濠沿いで人とすれ違うことはめったにない。お濠の水面に反射するオフィスビルの明かりがひとつひとつ消えていくくらいの時間。柳が風で涼しそうに揺れるのを眺めながら、いつも必ずここにいる、つがいのスワンを探して歩いている。パレスホテルが見えてきた頃、暗闇の中で優雅に泳ぐ仲良しを見つけたら、安心して眠りにつくことができるから。夏の夜にふたつの白が際立つその姿は神々しくもある。彼らも長い時をここで刻んでいる。静かなお濠沿いには、蛍も現れるらしい。
お濠のスワン皇居外苑、馬場先門と和田倉門の間の馬場先濠あたりで見かける仲良しのつがい。外苑には1953年にスワンが放鳥され、現在は10羽ほどが飼育されている。柳越しにスワンのいる風景は、今ではお濠に欠かせない名物になった。眺めていると遠くの方からそばに寄ってきてくれることもある。特に白が浮かび立つ、夜は素敵。