『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ 月9)は、田村由美の同名人気マンガのドラマ化。整(菅田将暉)にとって大切な人が亡くなった場所で、まだ起こらない事件への不安にさいなまれる整……。第8回を、ドラマを愛するライター・釣木文恵が振り返ります。オカヤイヅミのイラストもお楽しみください。第7回はこちら(レビューはネタバレを含みます)。
菅田将暉『ミステリと言う勿れ』8話 まだ何も起こってない「ダンゴ虫になっちゃダメ」
ミステリとは言えない展開
今回、整(菅田将暉)が訪れたのは別荘。となれば、つい嵐とか吹雪とかで外部との連絡や行き来ができなくなり孤立した中で事件が起こる「クローズド・サークル」ものを想像してしまうけれど、どうやらこのドラマではそんなことはなさそうだ。『ミステリと言う勿れ』というタイトルを体現するかのように、わかりやすいミステリの形はなかなか成立してくれない。
整が「考えて、それを誰かに話す」きっかけになった女性、喜和(水川あさみ)は整の大学の天達教授(鈴木浩介)のパートナーだった。天達は高校時代の同級生とともにゲストを迎えて別荘でミステリー会を開くため、そこに手伝いにきてほしいと整に頼む。
別荘にみんなが集まった夜、ミステリー会が始まる。お題はこの別荘の前オーナーの妻が亡くなった、その真相を探ってほしいというもの。同じく天達が手伝いを頼み、別荘に来ていた風呂光(伊藤沙莉)とともに書庫を整理していた整は、別荘の主・蔦(池内万作)自身の話だと解き明かす。――が、それはすべてミステリー会のために蔦と天達が仕掛けたウソ。
整がいつものごとく鋭い観察眼で見つけたヒント、そこから導き出した答えは合っていたけれど、事件は架空のものだった。「死んでいないなら、そのほうがいいです」という整の発言は、やはり人が死んでなんぼのミステリのさだめをひっくり返す言葉だ。
整にとって「大切な人」にまつわる事件
しかしこの場にいたもうひとりの同級生、橘高(佐々木蔵之介)が、「よくそんなことができるな」と怒りを露わにする。蔦の妻の話はウソだったが、実際5年前に喜和がここで亡くなっていたことが天達の口から語られる。
家庭に問題を抱えていた幼い整に、「考えて話す」ことを教え、ある意味そこから救い出してくれた大切な人、喜和。彼女が謎の多い死を遂げたその場所に、同級生たちとともに集まった天達の意図をはかりかねる整は、つい気づいてしまったさまざまな違和感に蓋をするように「何も起こらない。何も起こってない。ただちょっと気になるだけ」と自分に言い聞かせる。布団をかぶりながら整がつぶやく「ダンゴ虫になっちゃダメ」の言葉は、かつて我路(永山瑛太)から切り落とされた人の腕が送られてきたときも発していた。困ったときに唱えているらしい。
天達も、整にとって自分を理解してくれる大切な人だ。整が蔦から「教師に向いてないんじゃない?」と言われたときも、「自分に苦手なものがあると認知している教師は生徒にもそれがあると理解できる」と整のよさを語る。あるいは、ミステリー会のシーン。亡くなった女性は花が好きで、四つ葉のクローバーを押し花にしていたという話に整が異を唱える。四つ葉のクローバーは踏まれてできる、植物が好きな人なら知っているはずと。そして「もし幸せだったらそんなふうに探さなかったと僕は思います」とつぶやく。そんな整に天達は「痛みの先に幸せがあると思ったのかな」とその女性をフォローしつつ、整に別の見方があることを指し示す。
喜和が亡くなったのは過去のことだし、不明な点も多いけれど天達は「もういいんだ」と言っている。ここではまだ何も起こっていない。けれどももしかしたら、天達はなにかよくないことを考えているかもしれない。天達は整に「一人だけウソをついている人を見つけて」、風呂光には「一人だけウソをついていない人を見つけて」と伝えていた。まだ何も起こっていないこの別荘で、ミステリと言うべき出来事は起こるのだろうか?
佐々木蔵之介が出るからには……
こういう見方はやめたほうがいいと思いつつ、どうしても、佐々木蔵之介が単なる「仲間のひとり」では終わらないだろう、といううがった見方をしてしまう。けれど何も起こっていない以上、何が起こるのか、そこに橘高がどんな形で関わるのかはまだわからない。
ちなみに、原作で整とともに別荘のお手伝いに呼ばれたのは、天達のゼミで一緒になったこともあるが整は話したことのない、陽キャの男子・相良だった。蔦が整の印象を話すシーンも、人当たりのいい相良との対比を見て、「一人はあざとい小僧で 一人は空気か」と言っている。ドラマでは風呂光がここに関わることでなにか変化があるのか、後編の9話を楽しみにしたい。
脚本: 相沢友子
演出: 松山博昭、品田俊介、相沢秀幸
出演: 菅田将暉、伊藤沙莉、尾上松也、白石麻衣、鈴木浩介、筒井道隆、門脇麦 他
原作:『ミステリと言う勿れ』田村由美/小学館(『月刊フラワーズ』連載中)
主題歌: King Gnu『カメレオン』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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