『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ 月9)は、田村由美の同名人気マンガのドラマ化。何も起こっていないように見えて2つのできごとが進行していた──。整(菅田将暉)がちょっとした違和感から真相にたどりつく『ミステリと言う勿れ』第9回を、ドラマを愛するライター・釣木文恵が振り返ります。オカヤイヅミのイラストもお楽しみください。第8回はこちら(レビューはネタバレを含みます)。
菅田将暉『ミステリと言う勿れ』9話。佐々木蔵之介の演技に圧倒される
何かが起きる前に気づく整
『ミステリと言う勿れ』では、「何も起こらない」ことが何度かあった。4話では、爆弾は実際に仕掛けられたけれど、爆発前に見つかった。5話では過去に起こった事件が語られ、整(菅田将暉)はベッドの上でその謎を解いた。そして今回も、整は何かが起こる前にその企みを指摘した──。
整が、大学の教授である天達(鈴木浩介)に誘われて参加したミステリー会。会場となった別荘では、整をかわいがってくれていた天達のパートナー、喜和(水川あさみ)が5年前に亡くなっていた。天達は事件について、「ずっと違和感があった」と整に伝える。
彼らが山荘で一晩を明かした翌日、雪のせいで停電が起きてしまう。メンバーが穏やかに過ごすなか、天達に「一人だけ嘘をつく人を見ていてほしい」と頼まれていた整は、橘高が嘘をついていたことに気づく。同様に天達から「一人だけ嘘をつかない人を見てほしい」と言われていた風呂光(伊藤沙莉)は、ミステリー会のときに橘高が一人だけ本気で怒ったことを指摘する。
犯人の悲しみを伝える佐々木蔵之介の表情
橘高はあっさりと、喜和の居場所をストーカーに話してしまったと告白する。さらには、最近起きた3件のストーカー殺人に関して橘高がストーカー側に情報をもらしたことも判明する。ミステリー会のゲストとしてやってきたデラさん(田口浩正)、パンさん(渋谷謙人)は、橘高に疑念を抱いた刑事だった。
さらに整はもうひとつの橘高の企みを指摘する。橘高が周到に自分の痕跡を残さず、この場にいる全員を殺そうとしていることだ。別荘のグラスも皿もスリッパもベッドも使わなかった橘高は、あろうことか予行演習として全く関係のない人たちを殺してもいた。
ミスをどうしても言えずに最悪の事態を招いた橘高。役所づとめで親の介護をする自分と比較し、楽しそうに生きているかつての同級生である天達や蔦(池内万作)に妬みを持っていた男。そんな橘高に対して「悪意よりミスの方が話せない人もいる」「喜和さんの事件が起こったのは橘高さんのせいじゃない」「ストーカーに腹が立ちます」「本来はケアされる側の人間でした」と整は理解を示す。
9話はなんといっても佐々木蔵之介の演技だ。飄々とした佇まい、回想の中のミスを犯す前の爽やかな笑顔、無表情での犯行の告白。「自分が殺されるかも」と思ったときの追い詰められたようす、最後の泣き顔。優秀な人がたった一つのミスで転落していった、その果ての悲しみがそこにあった。
ドラマ版風呂光の存在意義
原作では、天達に請われて整と別荘に参加したのは整と同じ大学の学生だった。今どきっぽい、軽い感じの若者でありながらも整が本当のことを口にしないなど、整の本質を見抜いていた。
ドラマでは風呂光が整とともに客観の目としてこの場にいた。ガレージに閉じ込められた際(この展開もドラマオリジナル)、緊急脱出用らしき紐が天井から下がっているのを見つけた風呂光は、自分よりも背が高く、男性である整にはやらせず、自分がなんとかしようとする。整によって刑事としての存在意義を見つけた彼女は、刑事として一般人である整を守ろうという気持ちがあるのだろう。だから閉じ込められたときに自分が率先して動いた。
また、事件がひと段落ついたあと、デラさんに「同業者はお互いわかりますな」と言われて同意した風呂光は、整にだけ「全然わかりませんでした」と笑顔で伝える。悲しい事件を暴き、大切な人の死を改めてつきつけられた整を少しでも元気づけようとしたのかもしれない。
風呂光は恋心に近いものを整に抱いているように見える。けれどもそれ以上に刑事として、整の観察眼と考え方を尊敬している。ドラマを通じて、彼女は整の味方であり続ける。整自身がそのことをどう思っているかはわからないが、風呂光の存在は友達のいない、誤解されがちな整にとって心強いものだな、といち視聴者としては思う。
その風呂光が、9話最後でライカ(門脇麦)の秘密らしきものを知ってしまった。ライカは、そして整はどうなっていくのだろう。
脚本: 相沢友子
演出: 松山博昭、品田俊介、相沢秀幸
出演: 菅田将暉、伊藤沙莉、尾上松也、白石麻衣、鈴木浩介、筒井道隆、門脇麦 他
原作:『ミステリと言う勿れ』田村由美/小学館(『月刊フラワーズ』連載中)
主題歌: King Gnu『カメレオン』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Edit: Yukiko Arai