いまやイギリスの誇るべきブランドになったJ.W.Anderson。「ジェンダーレス」という言葉に火をつけた2013A/Wシーズン以来、過剰なエンタメ要素は削りつつも順調に「このブランドなら小物でもTシャツでも何でも欲しい」と世界中のファンを夢中にさせる程、ブランド自体の価値も確立した。その後Loeweのクリエイティブディレクターに就任し、LVMHからも少数株を取得する等なだらかに成功の道を歩み続けてきた。一方、徐々にコマーシャルな雰囲気を醸し出しながらも、自身初の路面店「JW Anderson Workshops」をロンドンのクラブ街であるイースト/ショーディッチに構え、度々フォトグラファーやアーティストとコラボレーションを自由に行う姿は彼らしい。
最近では2018 S/Sピッティにてコンバースとのコラボレーションを果たし、続いてユニクロとのコラボレーションも話題になっている。彼はこのままコマーシャルな方向に走ってしまうのかという声も上がる中、実は今年6月までの3ヶ月間、イングランド北部の西ヨークシャー州にて自身初のキュレーション展覧会「Disobedient Bodies: JW Anderson curates The Hepworth Wakefield」を開催していた。合わせて刊行された写真集は、瞬く間に完売となる店舗が相次いだが、2000部限定で再版が決定。国内各取り扱い書店にて販売される(一部プレオーダー実施)。
Jonathan Andersonが考えるファッションとアート
西ヨークシャー州で開催した展覧会「Disobedient Bodies: JW Anderson curates The Hepworth Wakefield 」は、V&Aで開催中のBalenciaga回顧展のようなものではなく、Barbara Hepworth、Henry Moore 、Jean Paul Gaultier 、Helmut Lang など様々なブランドの服やアート作品、また自身がコレクションしている作品などを並列して展示。
本書でファッションとアートの融合について語る。「僕にとって、ファッションは仕事とビジネスである一方、アートはパーソナルな気持ちでクリエイティブな方向に向かわせてくれます。本展を企画するにあたりこの視点を再評価し、これら2つの世界を近づけようと試みました。アートの視点からファッションを見たときに、服は革命的なアーティストに対抗するように彫刻のような形作りを行ってきたことに着目し始めました。ファッションは経済に動かされるものですが、ヴィジュアルアートにも成りうるはずです。例えば、川久保玲やクリスチャン・ディオール、マダム・グレのようなファッションの伝統的な言語のルートになっているデザイナーたち。彼らの素材と形の活かし方は、いまでもなお革命的です。つまりほとんどのクリエイティブな作品は、僕たちが存在する社会によって形づくられ、インスパイアされています。ある意味、僕たちは人間であるという意味を考える方法にもなりえます。」
元々このアイディアが生まれたのは、彫刻家・Henry Mooreの作品「Reclining Figure(1936)」から。Jonathan Andersonは、作品を見たときにJean Paul Gaultier 1984年シーズンに発表した伝説的な”Cone Dress(円錐形のブラが付いたドレス)”を思い起こす。このような連想ゲームにより徐々にアイディアが固まっていき、Helmut Lang 2003S/SコレクションからはGiacomettiの彫刻も連想するようになる。ある切り口からは筋が通らない所もあると本人が語る一方、このような彼独特の視点から展覧会&本書は始まった。
ファッションデザイナーとキュレーター
本書で自身をファッションデザイナーというよりキュレーターかアーティスティックなディレクターと呼ぶように、これまで彼の活動でもコラボレーションを多々企画してきた。Google Arts & CultureのJ.W.Andersonのページでもこれまでの豪華コラボレーターの特集をしている。本書のコラボレーターは、美術館「Hepworth Wakefield」のチーフ・キュレーターを務めるAndrew Bonacia、ロンドン拠点の出版社「InOtherWords」を主宰するデザイン・スタジオ・OK-RM、そしてブランド立ち上げから共に撮影を行うフォトグラファー・Jamie Hawkesworth。
デザイン・スタジオ・OK-RMとともに考えた本書には、展覧会の様々な種類の紙を要所に使用、かつ 142 ページにわたり各ページ毎に作品を一つ掲載するスタイルで編集され、製本はあえて簡素にゴムだけで綴じられている。J.W.Andersonの初広告写真から共に活動するフォトグラファー・Jamie Hawkesworthとは、展覧会場の西ヨークシャー州にある学校に通う子供たちを被写体に撮影。作品以外にも展覧会場のチーフ・キュレーターを務めるAndrew BonaciaとJonathan Andersonによる対談、 ファッションジャーナリスト・Sarah Mowerが執筆したテキストも収録されている。
2013A/Wで世界的なムーブメントを巻き起こし、様々なインタビューで「ジェンダーレス」について問われる際に彼が追求していたポイントは、あくまでも「従来の男女の服の形に縛られず、自分の視点から見たプロポーションラインに置き換えて新しい形を作っている」ことだった。それは今までにもCHANELをはじめとして、歴史的なデザイナーたちも社会的な男女のポジションを主題に数々の斬新な服を打ち出してきた。彼も同様に私たちが日常的にメンズ・レディスの服両方を楽しむように、両者の体格を超えたJ.W.Anderson独自の「Disobedient Bodies」をいままで多種多様な媒体を使って表現してきたのかもしれない。そう気づかせてくれる本書の再版をぜひお見逃しなく。
【書籍概要】
タイトル:DISOBEDIENT BODIES
作家:JW Anderson
出版社:IN OTHER WORDS
判型:ソフトカバー / 142 ページ / 230 x 310 mm / カラー、モノクロ / 2017 年刊 / 第二版
発行部数:2,000 部 / 言語:英語
販売価格:5,600 円(税抜)
URL: https://twelve-books.com/products/disobedient-bodies-by-jw-anderson