お笑いと同じくらい海洋生物を愛することで知られる、男性ブランコの平井まさあきさん。コンビのネタ作りを担当する彼に、「もしも大好きなミズダコが大流行しているパラレルワールドがあったとしたら?」と聞いてみた。想像をたくましくして描かれる、ひとつの“流行”の始まりと終わり。
【生物学、マーケティング、エンタメ視点で分析!特集 #流行と人気の正体 より】
お笑いと同じくらい海洋生物を愛することで知られる、男性ブランコの平井まさあきさん。コンビのネタ作りを担当する彼に、「もしも大好きなミズダコが大流行しているパラレルワールドがあったとしたら?」と聞いてみた。想像をたくましくして描かれる、ひとつの“流行”の始まりと終わり。
【生物学、マーケティング、エンタメ視点で分析!特集 #流行と人気の正体 より】
つぶらな瞳でご挨拶
しゃべるタコが社会現象に
「ある日、漁師さんが出会ってしまったんです。船に引き上げられた網の中、ゴニョゴニョと発音する一匹のミズタコに。近づいてみたらなんと目が合って、たどたどしい口調で『ゴキゲンヨウ』なんて言う。それはそれはセンセーショナルな報せだったでしょうね。ミズダコはとても賢い生き物で、5、6歳児程度の知能があると聞いたことがあります。ある水族館では、自分と離れた場所にいるカニを、わざわざパイプを伝って捕食しに行ったこともあるらしい。そんなタコですから、賢すぎる個体がいてもおかしくない。欧米では悪魔の使いなんて呼ばれるくらい嫌われものですが、しゃべる個体の出現によって、またたく間に大ブームになります。生物学や科学的側面からのアプローチも白熱しますが、日常生活にもその波は広がっていく。
たとえばファッション界には、ミズダコのインスピレーションがニュルンと入ってきて、タコの形をしたレインウェア、通称『タコポンチョ』が大流行。触手を模した八本足のフリンジが可愛らしい。さらに、タコが海水に強い特性を生かした新特殊素材が使われ、どんなに濡れてもヘタらない、驚くべき効果を発揮します。
あとタコって、足の吸盤で味を感知できるんですが、それをヒントにした『付け触手』が開発される。指に装着してタッチするだけで、どんな味かわかるんです。パンチの効いたフォルムも追い風となり、試食ならぬ“試触”という概念も次第に浸透していきます。実際現実に、生物の構造や機能からヒントを得て、新しいテクノロジーを開発する技術もありますよね。蚊の針を応用して痛くない注射針が発明されたりとか。本来、生き物のフォルムというのは、生きていくためになくてはならない理由があるものです。天敵から身を守るため、オスがメスに存在をアピールするため…生存戦略や性質に紐づいた、必然性のある見た目は美しい。だからミズダコブームが成熟していくなかでも、ただカワイイから見た目を真似るだけじゃなくて、そういう点で自然界をお手本にしていけるといいですよね」
脱皮文化が流行ったら
「そしてそのうち、国民的ミズダコアニメが作られます。たいていタコモチーフのキャラクターといえば、『スパイダーマン』のドクター・オクトパスみたいに、悪役に据えられるのが定石ですけど、この作品では主役。ミズダコはもともとクレバーだから、メインキャラだけどずる賢い性格、という設定で。ニヒルな主人公が、天敵であるアザラシをうまいこと丸め込む、『トムとジェリー』みたいなドタバタ海中アニメです。タッチはほのぼの系かと思いきや、海洋生物の体独特のヌメヌメ感をリアルにちゃんと表現。それが逆に子どもたちに好評だったりするかもしれません。
なんでこんなにタコに惹かれるのか?異形さが好きというのがまずありますが、もしかしたら、もうひとつ願望を重ねているからかもしれません。と言うのも、僕には前から“脱皮欲”があるんです。日焼けをしたときや吹き出物が出たときなんかに、脱皮をして瞬時につるんとなりたい。一度全部をゼロにできたら、って。家具を全部捨てて、自分の部屋をまっさらな状態にしたいと思うこともあります。全部捨てられたらスッキリするんだろうなという、エグ目の断捨離願望ですね(笑)。クモやサソリが脱皮する動画をよく観るんですけど、とても気持ちよさそうです。ミズダコの生態が注目を浴びるなかで、脱皮文化も流行ったらいいのにな。ちなみに彼らは月に一度、吸盤を脱皮します。その抜け殻が水の中で舞う様子は『吸盤スノー』と呼ばれ、それはとても綺麗なんです」
人間に与えられた教訓
「そんなこんなの大流行。世間ではついに、タコが犬や猫のような、人間のパートナー的存在になります。巷では相棒のタコを自分の肩に乗せて外出するのがスタンダードになり、その年の流行語大賞には『カタコ』という言葉もノミネートされました。可愛らしい。でも悲しいかな、ブームにはいつか必ず終わりが来る。一部のミズダコたちが人間たちにぞんざいに扱われ、心に深い傷を負って海へと帰っていきます。でも忘れてはいけません。タコは賢い生き物なんです。肩に居る間に、なんと人間の知識を吸収していた。海に帰ったのち、彼らは粛々と人間への反逆を企て、やがて海の中で大きな帝国を作るのです!一方で泣く泣く人間とお別れした、人を愛する優しいタコたちもいたでしょう。アンチ・ヒト派、友愛派、そして人間たち…各々を巡る構図は、さながら『三国志』ならぬ『三タコ志』(?)。激しい攻防戦が繰り広げられ、土地は荒廃し、文明は滅び、人類は本当の意味で気づくんです。生き物は大切に、無下に扱うとしっぺ返しを食らいますよ、ってね」
「カタコ」は“肩乗りタコと同じくらい、家族のような大切な存在”という意味も。
1987年兵庫県生まれ。2011年に相方・浦井のりひろと男性ブランコ結成。「M-1グランプリ」「キングオブコント」ともにファイナリスト。深海生物など変なカタチの生き物を好む。趣味は水族館巡り。