「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.121 嬉しくなる寂しさ
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.122
一人だけど、一人じゃない

vol.122 一人だけど、一人じゃない
カレンダーは8月になったばかり。その日、ライブイベントで帰った地元福岡。仕事が夕方には終わったので、夜は中高の同級生とご飯の約束をしていた。「久しぶり〜」「お疲れさま〜」と挨拶や労いの言葉を各々口にしながらビールで乾杯し、会っていなかった間のあれこれに話の花が咲く。私以外の子達は定期的に集まっているので、話している子のトピックスを他の席に座っている子がさらに詳しく教えてくれたりして、終始和やかな時間。酔いがいつもより早く回っているのも好きな人たちと一緒に飲むお酒だからで、私はまた嬉しくなる。最後には、人生ここまであっという間だったね〜なんて言い合いながらお開き。きっとこれから先もこの会はこんな風に締め括られるんだろうなぁとぼんやりした頭で思った。
またねと手を振り、よく乗っていた西鉄電車で実家に向かった。お盆は帰れないので実家に一泊し翌日夕方の飛行機で帰京したいのだけど、と母に伝えると、顔を見せてくれるだけで嬉しいと。案の定、手を洗い仏壇に手を合わせた後ダイニングに行くと、テーブルは私の好きな物で溢れていた。「友達とご飯は食べて帰るね」と連絡しておいたのに。「も〜、あったら食べてしまうやん」と軽口を叩きながら椅子に座る。それでもニコニコしながらキッチンでお茶を淹れてくれている母の後ろ姿を見つめながら、「母にとって私が帰ってくることは非日常なんだ」と既に分かっていたことを改めて思った。ここで料理をし、食器を洗い、掃除機をかけ、エアコンをつけ、眠り、目覚め生活している母。その当たり前の外に、私は少し早く踏み出した。母と私の毎日が重ならなくなった時、母はどんな気持ちだったんだろう、とお茶を啜る。
十三歳の私がこの家に住んでいた時、ずっと、ずーっとこの日々が続いてしまったらどうしよう、といつも怯えていた。それは十六で上京し一人暮らしを始めても変わらなくて。ベッドの上でそんな事を考えはじめてしまった夜は朝まで眠れなかった。そんな事を懐かしく思い出せてしまう寂しさ。あの時の私に笑いながら伝えてあげたい。あのね、変わらないものなんて何一つないよって。毎日おんなじだなって退屈してても、一生懸命生きていても、もうそれは始まっているの。誰にも止められない。血が繋がっていても、結婚して永遠を誓っても、友達がいても、自分の人生を歩いていく時人は一人だよ。学校や会社、社会に所属していても、この星にあるもの全て変わっていく。みんなの中にいても、誰といても、人は一人で、でもそれに気づけた人だけが、人は決して一人じゃないってことにも気づけるんじゃないかな。人生はきっと自分自身を深める為にある。時に孤独で苦しいけど、必ず大切な人たちからもらった愛が守ってくれる。次の扉が開いていく。ずっと一緒、何も変わらない、と当たり前がムクムクと顔を出した時こそ、ありがとう、を伝えるタイミング。好きな人やお世話になっている人にはちゃんと言葉にして伝えないと、今日という日も同じ熱量も返ってこない。
Text_Leo Ieiri Illustration_Hagumi Morita