「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.120 今の気持ちで20代をもう一度
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.121
嬉しくなる寂しさ

vol.121 嬉しくなる寂しさ
約束の時刻の少し前。待ち合わせている店の前に自転車を停めていると、通りの向こうから彼女がこちらに歩いて来るのが見えた。ダイヤル式ワイヤーロックをタイヤに通し終えた格好のまま、遠くにいる彼女を数秒間眺めてしまう。夏の日差しを受け止めるアスファルト。休日の昼下がりは気温も高く、室外機の熱気も、往来する車も人も、何もかも。みな小さな苛立ちを隠しているみたいに見える。
家で過ごしている完全なプライベート、ではない。玄関を出て、外出している、という意識はあれど。例えば駅に行く道中、スーパーで会計を待つレジの列。今自分は誰にも見られていない。きっと風景の一部と化している、と信じて疑わずにいる身近な人たちの姿を見つけてしまった時、私は動揺する。勝手に立ち入ってしまっている様な決まり悪さと、少しの好奇心。人はパジャマで家にいる時より、外にいながらぼーっとしている時の方がある意味で無防備なのかもしれない、と思ってしまうくらい。私もそうなんだろうか、と思考を巡らせながら彼女や彼をつい目で追ってしまう。それが血の繋がった家族であっても、確かに知っている人でも、他人みたいに感じてしまう寂しさや不思議さが、私の心にじんわり、じんわり広がっていく。広がっていくそれは、あたたかい寂しさで。ずっと一緒に過ごしてきた人の新しい一面を見て、まだ知らないことがあったんだぁって。それは関係を築いてきた自信があるからこそ、楽しめる寂しさな気がして、そのことに安心する。長年片思いしてきた人の知らない一面を見ても、やっぱり私この人のこと何にも知らないんだって寂しくなるだけだもんね。嬉しくなれる寂しさはスペシャルです。
そして、驚くことに人間はやっぱり動物で、たった数秒、長くて数十秒の出来事なのに、皮膚は他者の視線をちゃんと感じ取るのか、彼女も急に顔を上げ、辺りを見回し、お店の前で自転車を停めている私に気づいた。路上に大きな笑顔が咲く。私も手を振り彼女の元に駆けていく。今日のランチ何食べようか?
Text_Leo Ieiri Illustration_Hagumi Morita




































