「自分をごまかさないで、正直に生きたい」家入さん自身が今感じる心の内面を丁寧にすくった連載エッセイ。前回は、vol.119 祖母の家
家入レオ「言葉は目に見えないファッション」vol.120
今の気持ちで20代をもう一度

vol.120 今の気持ちで20代をもう一度
彼女とは中学からの同級生で、気づけば人生の大半を一緒に過ごしてきた。彼女に恋人ができ、私は彼女を通して彼に出会った。2人が旅行がてら東京に遊びに来てくれることもあったし、私が福岡に帰る時も必ず連絡した。長く付き合っていた2人が結婚した矢先、彼の転勤先が東京になり、私は狂喜乱舞。住まいを東京に移した2人とそれまで以上に遊びに出かけるようになった。よく歩き、よく食べ、よく笑い、彼女を東京に連れて来てくれた彼にも、大切な友達と出会わせてくれた彼女にも、神様にも!私は感謝した。そして2人は子供を授かり、家族がより家族になり、子育てにはちょうど良いタイミングで再び転勤。今は長野で楽しく暮らしているようだ。
流石にお互いが東京で暮らしていた時の頻度で顔を合わせることはできないけれど、生まれ故郷が同じなので、盆や暮れの帰省で何だかんだで会うことができている。地元が一緒というのは大人になってからも最強なのである。そんなこんなで、今回私が彼女たち家族に会うのは、今年のお正月以来半年ぶりだった。親族が福岡で結婚式を挙げるらしく家族で参列するから、とルートを吟味した結果、今回は長野から東京経由で移動することにしたらしく、タイミングが合えば会おう、と声をかけてくれたのだ。
新幹線の時刻も考慮して、駅から離れ過ぎない子連れにも優しいカフェに入店し、フレンチトーストやプリンを注文した。パパじゃなく私が隣に座らないとやだ、と駄々をこねられることの嬉しさよ。そしてママと私が近況を喋りパパが笑っている大人たちの構図を見た3歳の女の子が「喋らないで!」と話を何度も遮る面白さ。自分に分からない話で盛り上がっていること、そして普段近くにいる大好きなパパとママが家族以外の人と楽しく話している姿を見て少し存在を遠く感じてしまうことの心細さだったり。今いろんな感情が身体は小さいけれど心は大人と同じ彼女の中できっと渦巻いていて、それを隠さずはっきり伝える純粋さに、私は感動していた。素直って最強だね。
パパが娘の相手をしてくれている間に私たち2人は学生みたいに喋り続け、最近私が周囲の人たちの前で冗談みたくよく口にすることを彼女の前でも口にしてみた。「30歳の今の気持ちで、もう一度20代をやりたい」「いや〜、分かるけどでも20代の無鉄砲さと体力だったから、全てが良かったと思うよね〜」と彼女は笑っていて。私は、彼女だったらそう言うだろうなって思っていたから、本当にその通りになって、なんだかホッとしていた。
どうして、そんなことを考えたり口にしてしまうんだろう?とこのエッセイを書きながら整理してみると、切ない、という気持ちが1番近い。子供の頃からそういう傾向が強かったけれど、特に10代20代は強烈に誰かや何かに惹かれたり、熱量と熱量のぶつかり合いに人生を夢見ていたところがあって。今振り返ると周囲にもとんでもないエネルギーを発している大人しかいなかったし、人生はドラマティック一択だろ!と思っていた。(割とガチめに)だけど30歳が見えてきた頃、人生って思った以上に淡々としているものなんだな、ということがようやく受け入れられたのだと思う。ドラマティックであろうが、なかろうが、やることをやる、という軽やかな覚悟、みたいな。30代のキーワードは脱力。どんどん力を抜いて、真剣に遊びながら音楽して生きたい。
Text_Leo Ieiri Illustration_Hagumi Morita