『ディスタント』
(ミヤギフトシ /河出書房新社/¥1,800)
本の中が金色だ。語り手の記憶が照らすのは、1980年代〜2000年代初頭の沖縄、大阪、東京とニューヨーク。隔てられているはずの時間と場所がつながって、混ざりながら明度を増していく。「僕」とその同級生、写真の被写体になるニルスやダニエル、友人たち。登場人物たちと同様、あるいはそれ以上に、映画や音楽、ゲームの固有名詞が動き回ってセンチメントを運んでくる。写真や映像、文章などで作品を発表する現代美術作家による初小説集。
『路地裏の子供たち』
(スチュアート・ダイベック/柴田元幸訳/白水社/¥2,800)
シカゴの下町、移民が集まる工業地帯に張り巡らされた路地裏を、少年少女たちが駆け抜ける。貧しさや不穏さが充満する路上には、猫の合唱が響き渡り、香ばしいウエハースや甘やかなリンゴ飴の香りが漂っている。子ども時代の冒険の速度と想像力による時間の跳躍、奇妙な大人の奇妙な優しさを思い出しては、懐かしいという感情には場所や時代の制限がないことを知る。子どもを描き続ける米国人作家のデビュー短編集、待望の日本語訳が完成。
『さよならアメリカ』
(渋谷直角/扶桑社/¥1,200)
時代の空気を、特異な立ち位置から見つめてエグって、コミカルに読ませる渋谷直角による長編漫画。アメリカンカントリー風リノベを施した部屋に住み、東京郊外でダイナーを営む、アメリカかぶれの安藤(アンディ)。静かで平穏だった彼の日常は、アンディ・ウォーホルの未発表スケッチブックと出合ったことで、濁流にのまれ遠くへ押し流されていく。感情の置きどころに迷いながらも読みすすめれば、人の優しさや正しさについて考えるきっかけがつかめそう。