『あした死ぬには、』
(雁 須磨子/既刊1巻/太田出版/¥1,200)
毎日、起きて、生きて、生活する。仕事に疲れたり、人との関係や距離に戸惑ったり、心に体に変化が訪れていることにふいに気づかされたり、《死ぬのも怖いが生きるのも怖い》と、いくつもの想いや感じ方を抱えながら、それでもしんどい日々を泳いでいく。映画宣伝会社に勤める主人公、仕事場の後輩や先輩、高校時代の友人も、誰にも平等に降り積もっていく《年齢》と《40代の壁》に焦点をあて、現代を生きることを切実に描くオムニバス漫画。
『待ち遠しい』
(柴崎友香/毎日新聞出版/¥1,600)
大阪郊外、一軒家の離れに住む39歳の春子。母屋には63歳のゆかりが、その向かいには25歳の沙希が住んでいる。生まれ育った環境も、年齢も、好きなものも働きかたも違う彼女たちは、家という3つの箱とそれを結ぶ庭や路地を往来しながら、それぞれに関わりあうことで少しずつ変容していく。3人の女性とそれを取り巻く人びとの時間と、言葉になる前の濃淡の想いが重なって、紙の上に世界が描出されていく。作家の手つきに魅せられる長編小説。
『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』
(ルシア・ベルリン /岸本佐知子訳/講談社/¥2,200)
刷られた文字から、雨に濡れた地面や排気ガスの匂いが立ち上る。文字の連続が、少女の笑い声を、お酒を飲み込む喉の音を、洗濯機の唸りを耳に届ける。掃除婦、電話交換手、教師、学生、娘、孫、姉、妻、母。24編の語り手たちはくるりくるりと属性を変えていく。そして痛みや貧しさと肩を並べながら、《その日その日のリズムと形にゆったり身をまかせ》て生きていく。数冊の短編集を遺して去ったアメリカ人作家の邦訳作品集がついに完成。