駒形克哉《無題》1985 年 撮影:林雅之 MTMコレクション
今こそ知りたい、オルタナティブのリアリティ。佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 現代美術の定点観測
佐賀町エキシビット・スペース(以下、佐賀町)とは、1983年に始まり2000年まで続いた、日本初のオルタナティブ・スペースのこと。東京都江東区佐賀にあった食糧ビル(1927年竣工)の3階講堂を修復し、1983年に開設された。このスペース自体がまずめずらしかった。今からは想像つかないかもしれないが、たった20~30年前の日本では、リノベなんて言葉はほとんど聞かれなかったのだ。倉庫などを転用したギャラリーやおしゃれにアップデートしたビンテージマンションなどはごく一部、きらびやかで真新しいことが一番だった時代。そんななか、佐賀町はオープンした。
佐賀町エキジビット・スペース 空間 撮影:三好耕三
その中心にいた小池一子は、パルコなどの企画広告ディレクターであり、『現代衣服の源流展』(京都国立近代美術館、1975年)や『マッキントッシュのデザイン展』(西武美術館、1979年)などのキュレーション、「無印良品」の立ち上げにも関わったクリエイティブ・ディレクター。小池は、「美術館でも商業画廊でもない」もう一つの美術現場を提唱し、発表の場を求めるアーティストに寄り沿う姿勢を打ち出す実験的な展示空間として、佐賀町を始めたのである。
大竹伸朗は、1987年に佐賀町で個展を開催している。 大竹伸朗《ジェノヴァV》1986年©️Shinro Ohtake
佐賀町がオープンした1980年代当時、世界のアートシーンには、ドイツにクンストハレ(コレクションを持たない美術館)があり、アメリカではニューヨークのPS1(廃校となった公立小学校を改修し展示ギャラリーとアーティスト・イン・レジデンスを併設)が先鞭をつけるなど、新しい作家を生むインフラストラクチャーの開発が相次いでいた。その動向と並走するように始まった佐賀町は、「日本初のオルタナティブ・スペース」として海外からも注目される存在となる。
「佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 現代美術の定点観測」展示風景
佐賀町の魅力は、なんといっても、美術、デザイン、ファッション、建築、写真といった従来のジャンルを超えた多様さにある。例えば1985年には、『三一致 安藤忠雄+川久保玲+杉本貴志』展が行われている。これも、画期的なアプローチだった。そこには同時代のカルチャーがもっている空気が満ち満ちていて、美術に詳しくなくても、何かがここで起きていることが肌で感じられた。それを求めて通っていた若い人も多かったと思う。
「佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 現代美術の定点観測」展示風景
オルタナティブ(Alternative)には、主流から外れた、他の可能性といった意味がある。90年代のロックがオルタナと呼ばれたのも同じ理由。佐賀町が取り上げるものの共通点は、アートやファッションといった既存のジャンルではなく、オルタナティブであることだった。
杉本博司も、複数回佐賀町で個展を行ったアーティストの一人。 杉本博司《カリブ海、ジャマイカ》1980年 ©️Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
カウンターカルチャーの次を行く、別の可能性。それを、106回もの展覧会によって体現したのが佐賀町だった。関わった国内外のアーティストは400人以上にのぼる。森村泰昌、杉本博司、大竹伸朗といった、今や日本を代表するアーティストたちも、佐賀町での展示がキャリアの大事なポイントとなっている。
森村泰昌《美術史の娘 王女A》1989年 セゾン現代美術館蔵
2000年12月に幕を閉じるまで、多種多彩な現在進行形の発信は続いた。その一連の活動は「定点観測」という言葉に集約することができる。この展覧会では、佐賀町で展示を行った作家の作品や、当時の記録・資料などを中心に、開設から17年にわたる定点観測を通して、日本の現代美術の軌跡を辿っていく。異なる表現が共存した、佐賀町のしびれるようなあの空気を、ぜひ感じてみてほしい。
「佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 現代美術の定点観測」展示風景
そして、展覧会のカタログ『佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 現代美術の定点観測』HeHeも充実な内容。こちらには、全展覧会の会場風景が掲載されるという。インスタレーションのみならず、会場構成や場の雰囲気が何より魅力的だった佐賀町の記録が知れる絶好の本になるはず。
【佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 現代美術の定点観測】
会場: 「群馬県立近代美術館」 展示室1
住所: 群馬県高崎市綿貫町992-1
会期: 開催中~2020年12月13日(日)
時間: 9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日: 月曜(祝日の場合はその翌日)
観覧料: 一般:830(660)円、大高生:410(320)円
*()内は20名以上の団体割引料金
*中学生以下、障害者手帳等をお持ちの方とその介護者1名は無料
*10月28日(水)群馬県民の日は無料
出品作家: 戸村浩/ジェリー・カミタキ/ 端聡/駒形克哉/みねおあやまぐち/ 岡部昌生/野又穫/剣持和夫/吉澤美香/大竹伸朗/シェラ・キーリー/ 杉本博司/元慶煥/森村泰昌/堂本右美/滝口和男/ヨルク・ガイスマール/ 黒川弘毅/倉智久美子/立花文穂/オノデラユキ/白井美穂/岡村桂三郎/ 廣瀬智央/日高理恵子