俳優、デザイナー、スタイリスト…気になるあの人は何を読んでいるのだろう? 24人によるとっておきの1冊を、心に響いた一節を添えて連載でご紹介します。
女優/夏帆、俳優/井之脇 海 etc.|24人の愛読書「私のいちばん好きな本」vol.1

夏帆
女優
favorite book
梯 久美子『好きになった人』
多くの人々を取材してきたノンフィクション作家が、強く印象に残っている人々について綴るエッセイ。写真家の石内都などの表現者や、社会主義運動家の管野スガらの人生を通して社会を見つめ直す。(ちくま文庫/¥760)
遠い時代の話が、すぐそばに
女性たちのエナジーを感じる証言録
もともと、梯さんの作品が大好きで、その丹念な取材や対象人物との関わり方に感銘を受けていました。最近手に取ったこの本は、重いテーマがメインではありますが、梯さんのお茶目な一面も垣間見ることができるんです。人柄に触れられたような気がしてさらに好きになってしまいました。
特に印象的なのは、石内都さんのインタビュー。太平洋戦争中に、もんぺの下に密やかに美しい服を着ていた広島の少女たちの話がでてきます。戦況の悪化とともに制服だったスカートが制限され、動きやすいもんぺをはくことが当たり前になりますが、それでも「おしゃれがしたい」という気持ちを強く持っていた。どこか遠い存在のように捉えていた戦中の昭和を鮮烈に生きた人々を、急に身近に感じることができました。彼女たちも“今”を同じように過ごしていたのだ、と。学校では教わらない時代の側面と向き合うことができた気がします。
スタイリスト
favorite book
有吉佐和子『仮縫』
日本初のオートクチュール店で縫い子として働き始めた隆子は、ひたむきに仕事に打ち込む中で野心を燃やし始めて…。表題の深い意味を感じ取れる力強いラストも清水さんのお気に入り。書影は私物の単行本。(集英社文庫/¥600)*写真の単行本は現行の装丁と異なります
日本版『プラダを着た悪魔』のよう
働く女性の心情は今に通じる
およそ60年前に書かれた小説ですが、驚くほどリアルなファッション業界の内情が描かれています。オートクチュールを媒介とした女性たちの野心が渦巻くさまを、決してメロドラマにすることなく、ドライに鮮やかに記す、その巧さに一気に引き込まれました。節々に出てくるファッションのディテールも非常に魅力的、かつシックなものばかりで、幼心に妄想と憧れをかき立てられました。引用したのも、その一例。音楽会に出かけた時のデザイナーの抑制が利いた美しい服装を、同席した弟子の隆子が自分と見比べて感嘆する場面です。
初めて読んだのは、中学生の頃。祖母の本棚に並んだ、白黒ツイードの装丁に惹かれました。表紙をめくった見返しがパステルピンクなのも服の裏地のよう。現在手に入る文庫版とは異なる、この装丁で紹介したくて、ずっと大切に読み返している私物の単行本を今回書影にしてもらいました。
〈ダブレット〉デザイナー
favorite book
荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』
長期連載漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者が、キャラクターやストーリーの作り方、絵の描き方、世界観やテーマの設定といった具体的なHow toを解説しつつ、想像力の内面を惜しみなく披露する。(集英社新書/¥780)
真摯な姿勢に創作意欲を刺激され
勇気とプラス思考に励まされる
漫画術とあるけれど、描き方の底にある生き方が読める本です。全編を通して感じたのは、ブレないクリエイションの強さ。甘えなど一切なく、より貪欲により良い作品を追求し、独自路線をブラッシュアップし続ける。傑作を描けたと思っても余韻に浸らず次のクリエイションにすぐに向き合う姿勢には、自分に足らない点を教えてもらったようでした。全工程をアナログで描き続けるのは、パソコンから出力されたものは印刷物であって、原画がもたらす感動はそこにはないと考えているから。かっこいい、かっこ悪いなどという価値観ではなく、大事なのは〇〇風にならない個性だと思っている自分の考えとリンクする部分がとても多かった。それは、小学生の頃から現在まで、荒木飛呂彦先生の作品を読み続け、それが血となり肉となり、今の自分が形成されているからだと本気で思いました。世界でもっとも尊敬するアーティストです。
俳優
favorite book
星野道夫『旅をする木』
アラスカという美しくかつ厳しい大地の中で、たくましく生きる動物や先住民族らとのエピソード。写真家である著者が実際に体験した生と死が隣り合わせの生活を、深く心に沁みわたる文章で書き表す。(文春文庫/¥600)
出会う人、ものに尊敬を忘れない
先輩を鑑にして、自分を見つめ直す
これまであまり本を読んでこなかったのですが、自粛期間を機に、いろいろ手に取るようになりました。趣味がアウトドアなので、自然を題材にしたものが中心。これはその中の1冊です。星野道夫さんの写真はもちろん知っていたのですが、文章を読むのは初めてで。いざ開いてみると、アラスカの情景が目の前に浮かんでくるんですよね。自然の豊かさ、温かさ、そして怖さ。実際に体験しているかのようでした。
抜き出した一節にある感覚は、僕も東京を離れて登山したときに感じるんです。自然を前にすると圧倒されて心が震えるというか…。そして、星野さんが現地の動物や自然と正面から向き合う姿から僕が解釈したのは、自分以外との関わり方の中に〝豊かさ〟を見出すこと。いきなり星野さんのレベルは難しいかもしれないので、まずは日常の中で身近な人に対する自分の姿勢を見直していきたいですね。
*記事は2020年10月12日時点の情報です。現在は価格等が変更となっている場合があります。
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夏帆
オムニバス映画『緊急事態宣言』がAmazonプライムビデオで配信中。読書は月に4〜5冊。友人とおすすめを貸し借り。
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清水奈緒美
モード誌や広告などで活動。バッグには常に本を携え、移動中や喫茶店で楽しむ日々。小説が好き。
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井野将之
パタンナー村上高士とブランドを設立。のぼせる限界まで長風呂で読書したり、ベッドで本を読みながらの寝落ちも幸せ。
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井之脇 海
1995年、横須賀市生まれ。ドラマ『ハルとアオのお弁当箱』(BSテレ東)などに出演。趣味は山登り。