俳優、デザイナー、スタイリスト…気になるあの人は何を読んでいるのだろう? 24人によるとっておきの1冊を、心に響いた一節を添えて連載でご紹介します。
写真家/間部百合、アーティスト/荒神明香 etc.|24人の愛読書「私のいちばん好きな本」vol.5

間部百合
写真家
SF Keough
favorite book
ヴァージニア・ウルフ『ある協会』
女性蔑視に対しての反論を書き表したフェミニズム小説。本当に女性よりも男性の方が優れているのか。男性社会へと忍び込んだ女性たちが、その結果を5年後に報告し合う。(片山亜紀訳/エトセトラブックス/¥1,000)
100年前の女性たちの心の声とは
ウルフの初期短編が、モダンな装丁で
昨年、イベントで見かけて即買いしました。「ヴァージニア・ウルフでこの装丁。やるう!!」ってテンションが上がって(笑)。
登場人物は複数の若い女性。その中の1人が図書館の所蔵本を読破しようと通っていた際に男性が書いた駄作と出合い、物語が始まります。彼女たちは《質問協会》を立ち上げ、男の領域といわれる世の中を探検、彼らに質問しに出かける。印象的なのは海軍の船長が、無断で乗船した男装の女性を男と思い込んで鞭打つシーン。自分の名誉や沽券のための行動に皮肉たっぷりの書き方があって、にやりとしました。実は作者自身も“エチオピアの高貴な人”に扮して海軍視察したことがあり、後に新聞でスキャンダルに。女性の社会参加が難しかった当時の風潮への反論だったのでしょうね。作品が発表されたのは日本で平塚らいてうが新婦人協会を立ち上げた頃。100年の経過に思いを馳せながら読んでいます。
タブラ奏者
favorite book
高野秀行『ワセダ三畳青春記』
海外の秘境、辺境を訪ねたルポルタージュを手がけるノンフィクション作家の、原点ともいえる青春譚。キャラクター豊かな住人たちや、仲良しの友達とのどんちゃん騒ぎの青春時代を賑やかに書き記す。(集英社文庫/¥560)
ボロアパートに住む主人公に
降りかかる自由すぎる事件の数々
僕が人生で読んだ本の1/3ぐらいは父親の本棚から拝借したものなんですが、これもその中の1冊です。著者の高野さんが、家賃1万2千円のアパートで生活を続けた11年間の様子が描かれています。
登場人物がとにかく魅力的ですね。風変わりだけどお茶目な大家のおばちゃん、周囲に異臭を撒き散らすほど腐っている煮物を毎日食べ続ける住人。高野さん自身も相当に破天荒で、彼らの様子を読み進めるにつれ「もっと僕らも好きに生きて大丈夫なんじゃないかな」というような謎の勇気が湧いてきます。
しばらく留守にしていた間に、別の部屋の住人が「こっちのほうが日当たりがいいから」という理由で高野さんの部屋へ勝手に引っ越していたエピソードは印象的でした。清々しいほど自由ですよね。自分の周りにこんな人がいたら、きっとものすごいストレスだろうけど(笑)。
放送作家
favorite book
穂村 弘『いじわるな天使』
宇宙船で女の子をいじめる方法、逆サンタクロース…。ちょっと恐ろしいショートショートを15編収録。90年代の「ニューウェーブ短歌」運動を推進した穂村氏は、「ほむほむ」の愛称でも知られる。(アスペクト文庫/¥552)
これから展開されるストーリーが
待ち遠しくなる書き出しに首ったけ
大学生の頃に、ろくに授業にも出ていない時期があって(笑)。ひたすら本を読み漁っていました。当時は村上春樹さんや安西水丸さんに熱中していました。この本は、安西さんが表紙の絵を描いていたので購入してみたんです。15編すべての設定がバラバラで、断片的な夢の記憶を見せられているかのような感覚で楽しめます。 『ゼンマイ仕掛けの飼育係』は、動物園の動物たち、飼育員の私と妻、園長がみなゼンマイで動いているという設定。ある日、“私”は自分の部品を使って海亀を作り、脳みそまで移植して海亀になる。そしてそのまま動物園から外に旅に出るんです。物語はコントみたいにユーモラスで、文章は詩集のようにリズミカルで不思議。このお話の最初の一節が大好きで。「これから楽しそうなことが待っている!」ってワクワクしちゃいます。穂村さんが連れて行ってくれる世界を是非体験してほしいです。
現代アートチーム目[mé] アーティスト
Photo: Takahiro Tsushima
favorite book
東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由 ー会話のできない中学生がつづる内なる心』
会話が困難で思いを伝えることが難しい自閉症者の心の声を、当事者である著者が13歳の時に記した。世界28カ国で翻訳されたベストセラー。(エスコアール/¥1,600)
自分の創作表現の原点にもつながる
東田さんの変わらない純粋な視点
以前から自閉症の方の行動にどこか共感を抱くようなところがあり、情報を探していた時にあるブログを見つけました。それが、著者である東田さんのもの。本を手に取ったのはその後で、自閉症者であるご本人が語っているという珍しい作られ方にとても刺激を受けました。
この一節は《どうして水の中が好きなのですか?》という質問への答え。読み進めながら、「あ、こういう見方ができるのか」と何度も驚かされました。彼の視点は、「現象を知覚化する」ことをコンセプトにしている私が、手がける作品や活動の原点にも通じるところがあるんです。子どもの頃の感覚を持ち続ける大切さや、産まれて間もない時に世界をどう見ていたかなど…大人になるといつの間にか忘れていますよね。
この世の中には表現しきれない物事や感覚がまだまだあふれています。そんな世界をとらえるためのヒントにもなっています。
*記事は2020年10月12日時点の情報です。現在は価格等が変更となっている場合があります。
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間部百合
1976年生まれ。本誌をはじめ、雑誌や広告で活躍中。最近は散歩や移動中にKindleでの聞く読書を楽しんでいる。
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ユザーン
18歳で初めて聴いたタブラに衝撃を受けインドへ留学し、現地でタブラを学ぶ。新幹線でビールを飲みながらの読書が至福の時間。
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白武ときお
近著に、『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社)がある。好きな翻訳家は、常盤新平さん。
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荒神明香
東京藝術大学大学院美術研究科修了。2019年末の展覧会『目[mé] 非常にはっきりとわからない』が話題に。