9年ぶりに再会した弟は警察に追われる身だった───。梨央(吉高由里子)と優(高橋文哉)姉弟の逃避行、追う大輝(松下洸平)。ドラマを愛するライター・釣木文恵とイラストレーター・オカヤイヅミが、ドラマ半ばにしてクライマックスのような『最愛』5話を振り返ります。
吉高由里子×松下洸平『最愛』5話。梨央「逃げて」優「逃げても無駄やさ」記憶と記録、どちらが真実

姉と弟、9年ぶりの悲しい再会
クライマックスのような回だった。
姉・梨央(吉高由里子)に行方を知らせずにいた優(高橋文哉)。姉弟9年ぶりの対面で優は姉の前から姿を消したあとの道のりを語り、そして昭(酒向芳)を殺害したのは自分だと告白する。二度と会わないつもりだった姉に会ったのは、自首する決意をしたからだった。
とはいえ、興奮すると記憶をなくしてしまうという優の症状は治癒しているわけではない。つまり、優が自分の罪を認識したのは記憶からではないのだ。昭殺しは優が常に着けていたイヤホン型のカメラに記録された映像だし、梨央の前から姿を消した原因となった昭の息子・康介(朝井大智)殺しについても、事実を思い出したわけではなく、幼い頃に梨央に見せた映像を改めて見て自分が罪を犯したと理解したから。切り取られた映像の外側で何が起こっていたかは、まだ闇の中だ。
「そのこと記憶にある? 優はやっとらん」
「2人なら生きていける」と弟を誰よりも大切にしていた梨央が、そして弟がいつでも自分を助けられるようあえて敵対する後藤(及川光博)に近づいていたと知った梨央が、優をそう易々と警察に引き渡せるはずもない。
警察は優の残した映像をもとに、彼の逮捕に動く。優と自転車の青年・生田誠が同一人物かどうか山尾(津田健次郎)に問い詰められ、唇を少し震わせながら「確証持てません」とつぶやく大輝(松下洸平)が切ない。
子どもたちを守るため父が遺した映像
梨央の元を離れたあとも梨央の母・梓(薬師丸ひろ子)とともに優の面倒を見ていた加瀬(井浦新)。たった1日だけ優と故郷である白川に帰りたいという梨央の願いを聞き入れ、大輝らの尾行を振り切る手助けをする。ここからの追跡劇がスリリングだ。追われる梨央、追う大輝。もともと社長ながら飾り気のない梨央だが、特に地下鉄の階段を必死に走り抜ける姿には、なりふり構わず弟のために何でもしようという梨央の思いが垣間見える。高速バスで寄り添う2人は、15年前、誰にも頼れなくなった幼い姉弟に重なる。
やがて白川で墓参りを果たし、「逃げて」と言う梨央に、「逃げても無駄やさ」と返す優。それは、4話で大輝が優に投げた言葉でもある。
大学陸上部の日誌から、康介の失踪後に梨央たちの父・達雄(光石研)が車の買い替えを希望している記録を発見し、達雄が康介殺しに関わっていた疑いをもつ。
いっぽう、梨央と優は陸上部の寮に忍びこみ、達雄がパソコンに残した日記を見つける。そこには、映像も残っていた。その再生ボタンを押した瞬間、大輝らも寮に駆けつける。映像は、達雄が康介殺しについて全ての罪を負う告白だった。
記憶代わりに残した映像によって、優は苦しめられている。一方達雄はパソコンに残した映像で子どもたちを救おうとしたのだ。
最愛の相手を救えるのは誰か
「嘘ついとる、刺したのは俺や」という優に「姉ちゃんの前で言わんでええ」と叫ぶ大輝。
「お前と姉ちゃんが好きやった。2人が困ったらいつでも駆けつけるって思っとった。何もできんかったな」
大輝ができたことといったら、優に迫る桑田を止めて、最後まで達雄の動画を見せることだけ。そもそも、15年前の事件とその余波による部員の薬物使用発覚がなければ、大輝は決まっていた内定を取り消されることはなく、警察官になることもなかった。こんな皮肉なことがあるだろうか。スローモーションで描かれる優の逮捕と追いすがる梨央、それを受け止める大輝のシーンはもう、このドラマのクライマックスのようだった。そしてどうしようもなくなった梨央が「助けて」と伝えるのは、大輝ではなく加瀬だ。
5話のオープニング、モノローグは優のものだった。
「夢の中の姉は背が高くて 少し背を傾けて俺の顔を見る」
夢の中での梨央はいつも優を守ってくれた。梨央はいまや自分よりずっと背の高くなった優を現実で守ることはできるだろうか。
脚本: 奥寺佐渡子、清水友佳子
演出: 塚原あゆ子、山本剛義、村尾嘉昭
出演: 吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉 他
主題歌: 宇多田ヒカル「君に夢中」
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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Illustrator オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。
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