梨央(吉高由里子)の最愛の弟・優(高橋文哉)を助けるため、加瀬(井浦新)が全力を尽くす。一方大輝(松下洸平)は思いと職務の間で引き裂かれ───。ドラマを愛するライター・釣木文恵とイラストレーター・オカヤイヅミが、毎回異なる種類の緊迫感で観るものの心を鷲掴みにしてくる『最愛』6話を振り返ります。
吉高由里子×松下洸平『最愛』6話。緊迫!弁護士・加瀬(井浦新)の戦い、記者・しおり(田中みな実)の秘密

逆転劇、逃亡劇……毎回異なる『最愛』の魅力
毎回目が離せない『最愛』の面白さはいったいどこにあるのだろう。15年前といま、2つの殺人事件をめぐる謎が横たわっていること。そこに事件に関わりのある男女の、互いへの思いが絡まっていくこと。
その軸もさることながら、これだけ回ごとに異なる種類の緊迫感が迫ってくるドラマはちょっと珍しいんじゃないだろうか。2話では複雑な家族関係を巡るやりとり。3話は命を狙われる主人公と、それを守る男たちの一瞬の攻防。4話は社長の進退を巡る取締役会議での逆転劇、5話は逃亡劇。そして今回は警察・検察と弁護士の戦い……。
このドラマでは、登場人物たちが大切な人を守ろうとする姿が描かれている。と同時に、それぞれが大人として、自分の選び取った仕事に真剣に向き合っている様子も映し出されている。加瀬(井浦新)にとってはそれは大切な人を守ることと直結し、大輝(松下洸平)にとっては相反する面があり、梨央(吉高由里子)はいままさに窮地に立っている弟・優を助けることに直接すぐにはつながらないけれど、それでもギリギリまで新薬の承認のために働く。
梨央の「助けて」に対する加瀬の強引なまでのアンサー
警察に連行された優(高橋文哉)の身を案じる梨央。加瀬との面会で、優は15年前の康介(朝井大智)殺害も、昭(酒向芳)の殺害も自分がしたと告白する。しかしいずれも、記憶ではなく記録の映像によって認識したこと。
5話ラストで梨央から届いた「助けて」のメッセージに応えるように、加瀬(井浦新)は優の処遇をよりよくしようと、あらゆる手を尽くして警察、検察に接触する。警察官個人のプライベートを脅しに使うのはギリギリな感じもするが、優の病気に対する配慮を求めるのは真っ当なことだ。加瀬は梨央と優を守るため、弁護士資格をもつ自分の力を最大限に、時にはみ出さんばかりに使って全力で戦っている。
その加瀬から優への配慮を求められるがまま上司に進言する大輝(松下洸平)も、決して警察として間違っているわけではない。ただ、被疑者から自白を引き出そうとしている警察の中では孤立していく。さらに、粘り強い聞き込みで昭殺しの目撃者を探し当てた結果、優が殺人犯ではない裏付けをとってきてしまう。
優の映像と遺体発見時の矛盾、そして加瀬の強引とも思える働きかけと大輝の捜査によって、優は不起訴となる。
「警察は本来、何があっても被害者側に立たなきゃいけない。けど今回の事件、彼は被疑者側に同情しすぎてる」「よくないことなんだよ」
警察内での大輝の立場が危うくなっていることを加瀬に知らされた梨央は、もう大輝と会わないと決める。
「もう会わんようにする」「最後に顔が見たかったんや」
1話で故郷を離れる18歳の梨央は、歩道橋から大輝の走る姿をこっそりと見届けた。そして今、再び歩道橋でもう会わないと決意した梨央を見つけて「勝手に決めんな!」という大輝の叫びは、15年前にもきっと言いたかったであろう、けれど言う機会さえなかった一言だ。
「君に夢中 人生狂わすタイプ」
物語に重なる宇多田ヒカルの主題歌のことばが、回を追うごとに深く染み入る。大輝はあの頃と変わらない俊足で梨央を追う。彼女を捕まえて抱きしめる大輝は、けれども「じゃあね」と去る梨央をそれ以上追うことはできない。
誰にでも秘密はある
1話から梨央を追っていた記者、しおり(田中みな実)の存在感がぐっと増してきた。5話で取材中に拉致され、後藤(及川光博)にとどめをさされるかと思いきや逃されたしおり。そんな目に遭いながら後藤に向かって「殺されるのも悪くないなと思ったんです」「私の名前がトップニュースに出る、たくさんの人が私をかわいそうと言ってくれる」と悲壮な言葉を並べ立てる。
大輝が事件を追う中で、実はしおりが15年前、康介に性的暴行を受けた被害者の一人だったことが判明する。梨央が忘れたかったあの夜、しおりも寮にいたのだろうか。終盤で優と仲睦まじく自宅に戻る梨央に向かってしおりが放つ、
「やっと会えましたね。この日を待ってました」
の不穏さが気になる。
かつて大輝とともに陸上部で汗を流し、いまは富山県警で15年前の事件の捜査に関わる藤井(岡山天音)も、物語により関わりはじめた。彼は大輝からかつて寮でクスリに手を染めた長嶋の現状を聞いて「そう変わらんもんですよ、人間」とつぶやき、また15年前の事件について何らか知っていたかもしれない梨央について「こんなえらいこと知ってて胸にしまっておけるもんでしょうか」と言う。このさりげない言葉はこの先、なにか意味をもつのだろうか。
物語中盤、優を案じる梨央を落ち着かせるため、加瀬が連れてきたスイーツの店。こんなの、完全に加瀬の萌えポイントだろう。けれど、「なんでこんなかわいいお店知ってるの」という梨央に「言わなきゃダメ? それ」と言う加瀬は、「15年前の事件のこと、今まで言えなくてごめん」と謝る梨央と対比をなしているようにも見える。多かれ少なかれ、誰にでも人に言えないこと、言いたくないことはあるのだ。
脚本: 奥寺佐渡子、清水友佳子
演出: 塚原あゆ子、山本剛義、村尾嘉昭
出演: 吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉 他
主題歌: 宇多田ヒカル「君に夢中」
🗣️

Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
twitter
🗣️

Illustrator オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。
twitter
Edit: Yukiko Arai