写真家の松原博子がアーティストのソフィア・ファネゴと共に編んだ作品集『mono』、『mono ⅱ』の世界を見せる展示『mono-mono ⅱ』が2022年4月22日(金)より3日間限定で開催される。ここに至るまでの経緯、作品集や展示への想いを松原本人に聞いた。
写真家・松原博子が2冊の作品集を披露するエキシビジョンを開催
プロジェクトの始まりは5年ほど前に遡る。スタイリスト近田まりことのひょんなやりとりから、女性のヌードを撮影することを決意。当時モデルとして来日していたソフィア・ファネゴに声をかけると、言葉ではないところでも通じ合う感覚のある”魂の会話”がなされ意気投合。「ちょうど#metoo運動が盛んになり始めた頃で、これまでの価値観や概念が覆されて、ヌードとアートとの境界線がどこなのかってことも分かりづらくなってきていました。そんなタイミングで近田さんに“まっちゃんならアートとしてのヌードが撮れるからやってみたら”と背中を押されて。彫刻が好きで(それと通じるものがある)女性のヌードをいつか撮りたいと思っていたので、時間はかかりましたが、どうにか形になりました」。
何度かに分けて撮影した膨大なカットの中から、ひたすら身体の形や肌の質感に注力してまとめたのが『mono』、そして沖縄のクバを使って作られた、アーティスト大脇千加子によるオブジェを裸の身体に合わせて撮影した作品をピックアップしたのが『mono ⅱ』だ。『mono』はB4変形で64ページ、富山の山田写真製版所のプリンティングディレクター熊倉桂三が丁寧な印刷を和紙に施し和製綴じに。『mono ⅱ』はA5変形で200ページ、こちらは西小山にあるHand Saw Pressにてリソグラフで刷った。
「最初に『mono』を作ったときに、紙や綴じ、プリントにもすごく凝った結果、予算をオーバーしてしまって。(販売するためには)写っていてはいけないものを隠すために急遽銀箔を貼ることになったり(笑)、いろんなことがありましたが、学んだこともたくさん。だから『mono ⅱ』では当初もっと大きい本にするアイディアもあったけれど、今回は無理のない範囲で。それにリソグラフって一点ずつ微妙にズレがあったりするんですが、その違いがいいなと思っているんです。『mono』の銀箔も、出来上がったものにそれを施すことによって一冊ずつ違うものになったことは、結果的に気に入っています」。
今回の展示では、こだわり、逡巡し、考え抜いて生まれた2冊の作品集や、展示する写真そのものの質感を身体で感じてもらいたいのだという。
「和紙のざらっとした質感や羊皮紙の面白さ、リソグラフの色味、そしてその紙や印刷物を手に取る行為を楽しんでもらいたいです。展示するポスターは、山田写真製版所の熊倉さんがわたしの宇宙語(笑)を辛抱強く読み取ってくださって、和紙に印刷した感動的な大きさ(横4m!)になっています。そして、森祐子さんが書いてくださった作品集の解説文もとても素敵なので、本を眺めながらその言葉の世界に浸っていただきたいと思っています。本当はリソグラフの印刷機を置いて印刷するところも実際に見てもらいたかったのですが、それはちょっと無理でした」。
『mono』は2021年に刊行されていて、同年の10月にパリの書店「ofr.」にてファネゴと共にエキシビジョンを行った。さほど広くない店内に本がうず高く積み上げられ、壁面の棚にも本がぎっしり置かれているスペースを借りて(超重量級の棚を移動させて!)、5点のみ額装した写真を飾り、作品集を販売。この時、額縁を作ってくれた人から「白い縁(マット台紙)をつけたら写真っぽくなるし、黒い枠にすればコンテンポラリー(アートのよう)に見えるよ」と言われたことは、今回写真を展示するにあたってのヒントにもなったという。
「自分が展示をやるなら、自然光で写真を見せたいと思っていたので、1日のうちで時間の経過ごとに光が変化する、自然光が入るスペースを探していました」ということで会場に決まったのは池尻大橋のスペース「GARAGE」(ここのオーナーから、ガレージのような場所だからこそ使うときはきれいに、掃除するのが大切なこと、と言われて感動したんだとか)。二つの作品集を主役に、悩みに悩んで選ばれた何枚かの写真、そして『mono』のためにアメリカ人ライターのブリット・パークスから寄せられた文章から逆に松原がインスパイアされ撮った、9つのストーリーからなる動画も披露される。
さらには〈サンシー〉が松原の写真を使って一枚ずつ異なるように作ったオリジナルの限定Tシャツや、スタイリスト飯島朋子、松原によるウクライナのためのチャリティトートバッグも販売。「わちゃわちゃ感がわたしっぽいでしょう?」などと茶化すけれど、目標に向かって猪突猛進に突き進むその姿や、一緒に何かやったら楽しそう、と思わせるポジティブなエネルギーがきっとたくさんの仲間を呼んだのだ。
「みんながなんでもいいから手伝うよ、って言ってくれるのは本当にうれしいし、ありがたいです。本当に感謝してもしきれません」。