東南アジアのこと、普段の私たちは旅行や食べ物やユースカルチャーを通して知ることが多い。けどアートはというと、実は知る機会が少ない。それに応えてくれる展覧会が、六本木の森美術館と国立新美術館の2館で同時開催中だ。東南アジア10か国の86組のアーティストやアートスペースの活動を通して、同時代のアートを知ることができる。
で、始まったばかりの展覧会へ行ってみました。実際に目にする作品には、有象無象のパワーに満ちていた。欧米の美術を見るのと同じ感覚では理解できないようなベクトルの違うエネルギーは、相当にスパイシー。さあ、これをどう消化したらよいものか?

リー・ウェン《奇妙な果実》2003年 Cプリント 42cm×59.4cm
まずは国立新美術館へ。こちらは、リー・ウェンの代表作、《奇妙な果実》。イエローと形容されることの多いアジア人の肌の色を全身に塗りたくり、中国のちょうちんを上半身にまとった、果物のように見える風貌。この恰好で街中を歩き回り、周囲の人々の反応を見たという作品。ユーモラスな見た目のなかに、批評的な視点が垣間見える。

スラシー・クソンウォン《黄金の亡霊(現実に呼ばれて、私は目覚めた)》2014年金のネックレス、工業用毛糸、ネオン管、鏡、写真、他 サイズ可変パフォーマンス風景:台北ビエンナーレ、2014年©2017 Surasi Kusolwong
参加型の作品としては、スラシー・クソンウォン《黄金の亡霊(どうして私はあなたがいるところにいないのか)》も楽しい。5トン(!)もの糸くずがいっぱいに敷き詰められたエリアに隠されている金のネックレスを探すミッション。探す気がなくても(すみません)、糸の床を足で踏むモフモフ感が気持ちいい。ただし、そんなふうに歩き回っている姿は、傍から見れば宝探しに躍起になる欲深い人に……。アーティストの思うつぼというわけ。

スラシー・クソンウォンの糸の山に入ると、足がフワフワで気持ちいい。

ナウィン・ラワンチャイクン 《ふたつの家の物語》 2015年 インスタレーション
387 x 794 x 267 cm Courtesy: Navin Production, Chiang Mai, Thailand
ナウィン・ラワンチャイクン 《ふたつの家の物語》の作品は、自分の祖父が営む生地店「OKストア」を再現したインスタレーション。店のキャラクター?のオケコとオケエモンがあちこちに。

オケエモンとオケコのアイスが、インスタレーションの入口に!

アグリン・プリアンボド《必需品の店》2010年/2017年は、一見何の価値も関係もなさそうな商品が並ぶ露店自体が作品。鑑賞者は実際に買うことができる。薪の束3900円とか、意外に高値?
続いて森美術館へ

アピチャッポン・ウィーラセタクン+チャイ・シリ《サンシャワー》2017年 ミクストメディア
展示風景:「サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」森美術館、2017年
撮影:木奥恵三 画像提供:森美術館、東京
森美術館では、タイを代表するアーティスト・映画監督のアピチャッポン・ウィーラセタクンとアーティストのチャイ・シリによる、体長8メートルの巨大白象がお出迎え。
リュウ・クンユウのユートピアを描いた大型コラージュは、欧米が求めたエキゾチックな東南アジアのイメージと、日々発展し開発されまくっている都市の風景がないまぜになっている。

リュウ・クンユウ《そびえ立つ街》(「私の国への提案」シリーズより)2009年 フォトモンタージュ
213 x 575 cm

コラクリット・アルナーノンチャイ《おかしな名前の人たちが集まった部屋の中で歴史で絵を描く3》
2015年ビデオ24分55秒Courtesy: Carlos/Ishikawa London,
C L E A R I N G New York/Brussels,BANGKOK CITYCITY GALLERY
そんななか、アジア特有のメディテーション「瞑想としてのメディア」の章で見たタイのアーティスト、コラクリット・アルナーノンチャイの作品に目が留まった。というのも、どこのヒップホップ?と気になってしまう重低音のラップが響いてきたからだ。音の鳴る方へ向かうと、タイ語でラップするハードロッカー風の作家と、それを取り囲むカッコイイ男女たち(でも全員ケミカルジーンズの上下!)による、PVさながらの映像が。その合間に不気味な深海魚やワニといった生物がフラッシュバックのように差し込まれる。それらは、現地では神聖な対象であり、アジアのエキゾチックさやフェティッシュさも漂わせている。そして、ドローンの空撮によって映し出されるタイのジャングルと都市。ちぐはぐなイメージが、強烈なラップと、一転静かなモノローグをBGMに綴られていく。
この展覧会を見ていくうち、アーティストたちの関心が、現代の発展の先行を心配する気持ちと、外から見られる自分たちのイメージへの自嘲的なまなざし(それはもちろん近代の植民地支配という重い過去を含んでいる)の間で揺れていることに気づく。一方で、いわゆるアカデミックとは離れた場所で、社会とアートをつなげるオルタナティブ・スペースの活動には希望が見出せる。
展示のタイトルにもなっている“サンシャワー”とは熱帯気候特有のお天気雨のこと。もはや熱帯のように暑い異常気象の日本で、東南アジアの熱い風を感じてみるのもいいかもしれない。
ASEAN設立50周年記念サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで
会期:2017年7月5日(水)~10月23日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E、森美術館
開館時間:国立新美術館 10:00~18:00(金・土は21:00まで)
森美術館 10:00~22:00(火は17:00まで)
休館日:国立新美術館 毎週火曜
森美術館 無休
観覧料:2館共通 一般:1800円 大学生800円 単館 一般 1,000円 大学生 500円 高校生及び18歳未満の方は無料
*アクセスほか詳細はウェブサイトでご確認を sunshower2017.jp/