ヴォルフガング・ティルマンスの展覧会『モーメンツ オブ ライフ』が開催中だ。肖像画や静物画にも似た古典的なフレーミングの写真のなかに、不思議な共感を覚える。「エスパス ルイ・ヴィトン東京」にて2023年6月11日(日)まで。
写真家ヴォルフガング・ティルマンス個展が「エスパス ルイ・ヴィトン」にて開催中

ドイツ出身、2020年には英国出身者でない写真家として初めてテートモダン主催のターナー賞を受賞。2022年秋にはニューヨーク近代美術館で大規模回顧展が行われた。日本でも2015年に大阪国立国際美術館、2020年に六本木の「ワコウ・ワークス・オブ・アート」で個展が開かれている。
ヴォルフガング・ティルマンスは80年代から雑誌「i-D」等で発表を始め、90年代初頭、レイブやパーティで友人たちを撮影した作品群で注目を集めた。〈ルッツ〉のデザイナーであるルッツ・ヒュエルとは同じ学校出身で、同じく同級生のアレクシとルッツ2人が樹上に座る作品などは、今でも強烈な印象を放つ。ティルマンスの写真については、被写体との親密さと、しかしそこに沈みすぎないすっとしたリアリティとがよく論じられた。
以降もポートレートは彼の軸のひとつで、誰が相手であろうと被写体自身の自然な動きを捉え、個性をあらわにしてきた。セルフポートレートでも挑戦を重ね、画面中にさりげなく複雑なコンポジションを実現している。身体はもろく、日常は断片的なものでしかない。けれど、その「自然」には不滅の一瞬がある。それをつかまえることに、ティルマンスほど長けている作家はいない。近年積極的に制作しているビデオ作品も、身体性を介したさまざまな実験の一環だろう。
写真を社会的、政治的な実践とするティルマンスだが、’00年からは、静物もその作品世界で存在感を増している。17世紀オランダ絵画を思わせる構図で、日常のオブジェクトを捉える。もしくは、Wi-Fiボックスや電気ヒーターといった現代的なものを、古典作品の空気と絡めて写す。そうして対象を細部まで見つめ、具体から抽象へと昇華していくのだ。
アートスペース「エスパス ルイ・ヴィトン東京」では、フォンダシオン ルイ・ヴィトンが所有する作家のコレクションから厳選した作品を紹介する。稀代の写真家の冒険の跡と、思想と、センスと、なによりもエネルギーを感じに、ぜひ訪れたい。