いよいよ川内ミヤビ(杉咲花)の記憶障害の本当の理由がわかり、三瓶友治(若葉竜也)との関係も深まるかと思いきや……。『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系月曜夜10時〜)9話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。8話のレビューはこちら。
杉咲花×若葉竜也『アンメット』9話。圧巻の長回しシーンを振り返る
「三瓶先生は、私のことを灯してくれました」
考察『アンメット』9話
2人の沈黙が印象的な
圧巻の長回しシーン
『アンメット』9話を観てから数日は、終盤の長回しシーンのことばかり、繰り返し思い出していた。
夜。三瓶(若葉竜也)が病院内の、個人の部屋で深刻そうな顔をした後、医局へと向かう。そこには、遅くまで残っていたらしいミヤビ(杉咲花)だけがいる。顕微鏡で何かの作業を終え、伸びをしたミヤビが立ち上がって数歩進んだところで入口の三瓶に気づき、「お疲れ様です」と言いながら自分の席に戻る。少し遅れて三瓶も自分の席に向かう。2人の席は背中合わせだ。椅子を引きながら三瓶は言う。「大迫教授に会いにいったんですか?」。振り返って「はい」と答えるミヤビ。続く「何話したんですか?」という問いに少しの沈黙のあと、
「三瓶先生が……(少しの沈黙)、帝東医大やめたときのこと聞きました」。
「ああ」
自分が大迫(井浦新)といっしょに働いていたこと、上に逆らって未承認の薬を患者の少女に投与したこと、意識もなく動くこともできなかった彼女が一瞬だけ言葉を取り戻し、けれどすぐに亡くなってしまったこと。その一連をミヤビが知った、と三瓶は理解する。
そんな空気を和らげるように、ミヤビは三瓶の、少し照れ笑いのようなニュアンスを含んだ「ああ」の直後に「ふふっ」と笑い、「これ食べますか」とラムネを取り出し、椅子を足で漕ぐようにして三瓶に近づく。もらったラムネの代わりに三瓶は、1話でもミヤビに勧めた細長いグミを渡す。
そこから、好きな食べものの話。
ミヤビが妹と駄菓子屋にラムネをよく買いに行った話。
三瓶の兄との思い出。
なんでもない話を、椅子を揺らしながら話し、聞くミヤビ。けれど、ミヤビが兄について聞いたことで、すでに亡くなった三瓶の兄は重度障害者であったこと、施設に入れたことはただ兄を遠ざけただけだったのではないかと思っていることを、三瓶は時々沈黙を挟みながら、目に涙を溜めながら話していく。さらに、かつて少女に行った処置も、正解かどうかわからないとも。
「僕はまだ……」「光を見つけられてません」
「うーん……私だったら……」「嬉しかったと思います」
ミヤビはただ受け入れる。「言いづらいことを聞いてごめんなさい」とも言わない。沈黙を埋めようとしない。ちいさく細かく頷いて受け入れる。思えばミヤビは、これまで誰に対してもそう接していた。
「たぶん、光はこう、自分の中にあったらいいんじゃないですかね」「うん、そしたらたぶん、暗闇も明るく見えると思います」
記憶障害を起こす前に全く同じことを言っていたミヤビの回想シーンが挟まれたあと、あいみょんのエンディングテーマが流れる。
また椅子を揺らし始めるミヤビ。
涙があふれそうな三瓶。
鼻をこすって、涙をごまかしたかのようなミヤビ(顔は見えない)。
「川内先生」
「三瓶先生」
ミヤビに向かって近づく三瓶のひざに手を置いて、「三瓶先生は、私のことを灯してくれました」と言うミヤビ。ちいさく細かく(ミヤビのように!)頷いて、ミヤビの胸に頭を預ける三瓶、それを抱きとめるミヤビ。抱きしめ合う2人。
沈黙の時間も含め、たっぷり約10分の長回しシーン。余談からシームレスに三瓶の根幹に繋がる話に移り、お互いへの思いが溢れる気持ちの動き。それを演じる2人の間。原作―脚本―演技―演出が見事に繋がった、ドラマ史に残る屈指の名シーンを私たちは観た。
Edit_Yukiko Arai