韓国のシンガーソングライターでありながら、本屋無事という書店を通してフェミニストとして発信もしているYOZOHに韓国在住のerinamがインタビュー。
YOZOHの静かで温かいフェミニストの在り方
ハリウッドのプロデューサー・ワインスタイン氏のセクハラ告発をきっかけにSNS上で巻き起こった「#Metoo」の運動や、多くの著名人が賛同したことでゴールデン・グローブ賞でも話題になった「Time’s Up」運動など、SNSを通じて性的被害の告発やハラスメントが活発となっています。韓国においても先月女性検事が検察内部でのセクハラ被害を告白したことをきっかけに、航空会社や地方議会、放送局などでも告発の動きが広まりました。私が韓国に住むようになったこの2年半の中でも様々な事件や運動が勃発。何か問題が起きた時の韓国の人たちの力を合わせて行動に移す力、瞬発力のようなものは日本人の私にとって衝撃的なものでした。YOZOHさんへのインタビューを通じて、近い国だからこそ共感出来る考え方やヒントを探しつつ、日本ではあまりまだ知られてない韓国のフェミニズムの実情に迫ります。
Erinam: 自己紹介をお願いします。
YOZOH: ミュージシャンのYOZOH(ヨジョ)です。私の好みの本を選んで、販売している小さな書店を運営しています。2015年にオープンしてソウルで1年半程運営していたのですが、私自身が済州島に移住するのを機に一緒に移転しました。
Erinam: なぜ済州島に移住されたのですか?ソウルと済州島はどんな違いがありますか?
YOZOH: 元々個人的に済州島が好きで、住みたいなと思っていて、2年前に移住しました。長所短所があるけれど、済州島は自然が多く、とても美しく、韓国らしくもあり、異国的な雰囲気を同時に感じられる場所。韓国にいるようでもあり、外国にいるようにも感じられる。空、木、海、こういった自然を満喫できる点が気に入っています。反対にソウルも都市なので、便利です。ソウルと済州のいい部分を二つとも楽しみながら過ごしています。ポッドキャストでやっている番組があって、本に関連する番組なんですが、ソウルで2週間ごとに収録をしています。なので隔週でソウルと済州島と行き来しています。
Erinam: 最初は歌手としてデビューされていましたが、現在のように書店を運営したり、ラジオ番組で本を紹介するようになったきっかけは何ですか?
YOZOH: 具体的に何か目標をたててやってきたのではなかったんです。ミュージシャンの活動をしながら、個人的に本も好きで自然な流れで本屋無事もやったり、本に関する番組にも出演するようになりました。
Erinam: 本屋ではどんな本を扱っていますか?
私の好みが反映されている本ばかりだけど、セレクトには今までにいろいろな変化がありました。詩集がたくさん置いてある時もあったし、ある時は論文が多いときもあったり。ジャンルの変化が多かったけど、今はフェミニズムに関連する本が一番多いと思う。
Erinam: フェミニズムに興味を持ったきっかけは何ですか?
YOZOH: 江南駅で起こった殺人事件が自分にとって決定的なきっかけでした。それまでは漠然とした頭の中だけの考えでしたが、江南の殺人事件をきっかけに、何か行動に起こさないとダメなのではないかと思いました。この事件は韓国の女性に対して、とても大きな影響を及ぼしました。多くの女性が、事件現場の江南駅に行ってポストイットにメッセージを書いて貼り、自分たちの思いを声に出し始めた大きな事件です。
(※江南通り魔殺人事件=2016年に江南駅の男女共用トイレで1時間以上女性が入ってくるのを待ち伏せて、無差別に殺害した事件。犯人の「女性であったから」という殺害動機が社会的に大きな議論を巻き起こした。)
Erinam: 日本でも、最近「#Metoo」運動をきっかけにSNSを通じてセクハラのカミングアウトが目立つようになりましたが、私が韓国に住んでいる2年間だけでも、多くの女性達がそのような運動をしているのを感じます。韓国では、いつからそういったムーブメントが盛り上がったのでしょうか?
YOZOH: そういった声が出だしてから、そんなに経っていません。以前は、一部のフェミニズムに関心のある人達だけの問題だったのが、江南駅の事件によって、全ての人達が問題性を感じ始めたんです。女性として生まれたから自分にも同じような事が起こりうるのだと直感的に強く感じ始めるきっかけとなりました。「もしかしたら自分が殺された人のようになっていたかもしれない」という気持ちは、女性達の間で爆発的に生じて、私のようにフェミニズムに関して対して興味がなかった女性たちが積極的に自分の話をし始め、様々な分野で女優や女性スタッフたちの間で起こっていた、性暴力や、職場で起きているハラスメントなど、今起こっている性的被害を告発し始めるようになりました。特にツイッターを通して「#Metoo」のハッシュタグのような動きが始まったんです。
Erinam: SNSを通して告発する状況についてどう思いますか?日本では、まだ一般人にはあまり浸透していなくて、社会的に著名な人が中心として行動をしている雰囲気があります。韓国ではどうでしょうか?
YOZOH: 一般の人もたくさん参加しているし、たくさんの声が上がってます。例えば、ゲーム会社に所属する声優が、フェミニズムに関連するTシャツの写真をSNSにあげたのですが、そのせいでもうその会社で働くことができなくなりました。その事に関しても女性たちは不当だと声をあげました。
Erinam: 男性でありながら、そういった問題に関して声をあげている方もいますか?
YOZOH: 私達の考えに同調してくれる男性は少ないけれどいます。でもやっぱり既得権を主張する男性が多く、むしろ間違った被害意識を持っている男性も多くて、男性も差別されていて、しんどくて、女性だけが大変なんじゃないと思っている人がいます。でも、女性の身体をもって生まれ生きていくという事に関して、どんなものかをよく知らないし、コミュニケーションがきちんとできてない部分からくる考えなのだと思います。そんな誤解も多い状況で、その全ての事が刺激的な事だと感じてしまいます。
Erinam: 韓国では音楽フェスティバルやアートイベントで、若いアーティストがフェミニズムの活動をしているのをたびたび見かけました。その時、若い男性達もフェミニストと書かれたTシャツを着て歩いているのを見て、率直に驚きとかっこいい!と感じたのを覚えています。日本では、まだそういった社会的な問題に関する発言をする若いアーティストが多くはないので。
YOZOH: 日本の文化に興味があり、日本の状況はどうなのかとフェミニズムに関する情報を調べてみたのですが、韓国より日本の方が保守的だと感じた時があります。女性の問題に対して、何も感じていないと思ったりもしました。韓国や中国や日本は、とても身近だし、お互い影響しあう国だから、なんとなく同じような水準だと考えていたけれど、興味を持って見てみると、ある部分は意外にも韓国より進んでいたり、ある部分は韓国より保守的だと感じたりする部分がありますね。なので今回日本でフェミニズムが話題になっていると聞いて、とても気分がよかったです。
Erinam: 日本では韓国のように何か大きな事件がきっかけというより、なんとなくだんだん生きずらい理由が分かってきたような段階のように感じます。実際にSNSで何かをカミングアウトをするほどじゃないし、決定的な性的被害を受けたわけでもないけど、日々なんとなく会社や家庭で生きづらさを感じている人は多いと思うんです。
YOZOH: どんな状況か理解できます。韓国も長い間、なんとなく生きずらいけど、発言はできない。何か言えば、周りの男性が「今までこうやって生きてきたじゃない」「これが当然なんだよ」というし、発言する女性が変に際立ってしまう。「うまくやっていこうよ、どうしてそういう発言をして雰囲気を壊すの?」といったように男性が話してしまうから、空気を読みながら「私が変に気にしてただけ?敏感に反応してしまっただけなのかな?」と思って、流してきた時代というのは、韓国でも長い間ありました。でも江南駅の事件などをきっかけに、今まで流されてきたものは、当たり前のことではなくて、雰囲気を壊したとしても、発言していい事だったんだと自覚し始めたんです。その事件から、些細な事から女性達が声をあげはじめた。
例を出せば、韓国では殺人事件の記事が出ると、被害者が男性の場合は特に性別が掲載されないんです。でも、被害者が女性だと必ず被害者は女性だと表記される。さらに、とても細かく、20代、学生みたいに表現される。被害者でも加害者でも、女性の事に関して話す時は、”何歳でどこに住んでいて、どんな仕事をしている女性。”のように書かれて記事でのニュアンスが違います。女性という事実を出すことによって記事をセンセーショナルに作り出すんです。でも男性の場合、そういった刺激するような内容はない。それ以外にも「女子大生」という言葉はあるけど、「男子大生」という言葉はない。「女性作家」というけど、「男性作家」とは言わないですよね? 私のようなシンガーソングライターも「女性シンガーソングライター」と言われます。シンガーソングライターという単語そもそもが男性を指す言葉という認識が存在しているんでしょう。だから、男性の場合だと、シンガーソングライターという肩書になるけど、女性というだけで、めずらしい存在だから、「女性」という表現が前につく。こういうのはすごく細かい部分だけれど、フェミニズムに繋がってます。それも女性差別だと。そういう細かい部分でも、声をあげて、「なぜそれが正しくないのか」と問題化して、話をすることが、これから未来が良くなるように、良い影響を与える小さな一歩なんだと思います。