社会問題から甘いラブソングまで、 ダイバーシティなK-HIPHOPシーン
今、コリアン・ヒップホップが熱いんです!
「韓国の音楽」と聞いた時、K-POPアイドルグループを思い浮かべる人は少なくないだろう。斬新なファッションにスモーキーメイク、統制のとれた群舞などといったイメージだろうか。あるいはキャッチーで中毒性の高いポップスという印象も強いかもしれない。実はそんなK-POPには、あるもうひとつの特徴がある。大半の楽曲にラップパートがあるということだ。
そう、韓国は言わずと知れたラップ大国なのである。そこに至った理由はいくつも考えられるが、第一に挙げられるのは韓国語の持つリズム感だろう。韓国語には息を強く吐き出して発音する音と、反対に息を詰まらせて弱く発音する音があり、リズミカルにラップすることに適しているのだ。また、表音文字であるハングルは、ライミングや言葉遊びがしやすいとも言える。文化背景的にも韓国ではブラックミュージックが広く浸透してきたという側面がある。しかし韓国でここまでラップの人気が高まる最大の決め手となったのは、やはりBIGBANG、Block B、防弾少年団などといった「ヒップホップ・アイドル」たちの存在だろう。彼らは本格的なラップ・ミュージックにチャレンジしながら、ファッションやダンス・パフォーマンスなどビジュアル面でも大衆を楽しませてくれる。彼らに夢中になった若者たちは、気がつけばラップそのものの面白さにハマっていたのだった。
韓国では今や『Show Me The Money』を筆頭に『高等ラッパー』『ヒップホップの民族』などといったヒップホップ専門のテレビ番組が多く放送されている。これらの番組の影響により、それまでアンダーグラウンドで地道に活動をしてきたPaloaltoやDok2などといったラッパーが地上に躍り出て、元アイドルのJay Parkや作曲家出身のDEANもまた活動の場を広げた。サウンドは大衆受けのいいポップスからゴリゴリのトラップまで、リリックは社会問題を扱ったものから甘いラブソングまで、ファッションはタトゥーをびっしり入れたマッチョ系から最新のトレンドセッターまで。そしてその多様性こそが、韓国のヒップホップシーン最大の魅力である。
DEAN
シルキーボイスが魅力の新鋭シンガー。最新のフューチャー・サウンドを韓国に持ち込んだ張本人でありながら、最近はアコースティックに挑戦するなど次々に新しい姿を見せる。アメリカのトップアーティストたちとのコラボも多く、常に話題の的だ。
Dok2
13歳でキャリアをスタートさせて以来、その卓越したラップスキルで常にシーンのトップを走り続けている。2011年にThe Quiettとともに設立したIllionaire Recordsが大成功をおさめ、数億円にも上る資産を得たヒップホップ・ドリームの象徴的存在。
Jay Park
シンガー、ラッパー、ダンサー、すべての面において一流の才能を持つトップスター。レーベル運営もしながら新しい才能の発掘にも労を惜しまない。昨年Jay-Zが運営するレーベルRoc Nationと契約し、本格的なアメリカ進出が期待される。
Paloalto
低音ボイスと信念のあるリリックが特徴。2010年にHi-Lite Recordsを設立し、韓国ヒップホップシーンを代表するレーベルに発展させた。韓国大衆音楽賞の受賞経験もあり、もっとも大きなリスペクトを受けているラッパーのうちのひとり。
Text: Sakiko Torii