絶対に手放せないジャケットや、ずっとそばに置いておきたいバッグ。日々の表現を支える宝物は、いつだってクローゼットの中にある。ファッション好きなあの人が語る、残しておきたいものの話。#残しておきたい宝物
俳優・奥平大兼の残しておきたい宝物:リーバイス®のジャケット
受け継いだ、着続ける美学

受け継いだ、着続ける美学
袖まわりや肘が破れた古いリーバイスのデニムジャケットは、けれどどこか品がよく、ただものではない雰囲気を漂わせている。
「若い頃にバックパッカーをしていた父が、アメリカ横断中に現地で買ったものだそうです。3年ほど前に譲り受けました」
若手俳優の中でも抜きんでた実力で注目される奥平大兼さん。子どもの頃祖母に裁縫を習い、今も私物のミシンで服を縫ったりリメイクしたりするという筋金入りの服好きだ。
「父に教わってきたのは〝いいものを長く着る〟ということ。〝自分の服は全部あげる〟とも言われていて、最初にもらったのがこのリーバイスです。その時点でかなり年季が入っていましたが、いつか息子に譲ると決めて着続けていたらしく、粗末には扱ってこなかったことが想像できました。僕も誰かにこれを受け継ぎたいって思うから、大切に着たいし、絶対に手放せない」
ファッションは表現。カッコよく見られたいと思うことは正義だと、奥平さんは言う。
「ただ、このジャケットに関してはそういう感情が全くないんです。僕の勝手な考えですが、おしゃれかどうかは、服そのもののカッコよさじゃなくて、どれだけ思い入れがあるかで決まると思う。父が着たものを受け継いで、次へつなぐ。そういうストーリーに意味があるから僕が着続けなくちゃと思うし、破れたところも、父が直さなかったのであれば、そのまま着るのがいいと思っています」
実は最初、ジャケットを要らないと思っていた。服だけでなく音楽や映画も、なぜ親の好みを受け入れなきゃいけないのだろう、と。
「でも次第に、父は純粋にたくさんの価値を教えてくれていただけなのかなと気づきました。例えば一つの服を長く着ること。服に物語や歴史を持たせること。このジャケットが、父の価値観を手渡してくれたんです」
🗣️

奥平大兼
おくだいら・だいけん>> 2003年東京都生まれ。20年、初出演映画『MOTHER マザー』の演技で注目を集める。5月30日公開の映画『か「」く「」し「」ご「」と「』ではW主演を務める。©️Takuya Sugie(TRON)
Photo_Toshio Kato Text_Masae Wako