27歳の新進気鋭ペインター、藍嘉比沙耶の展覧会『ミル・クレープ2』がPARCO MUSEUM TOKYOで開催中だ。1990年代にセル画で制作された日本のアニメキャラクターに惹かれ、それらをインスピレーション源にした作品を発表する彼女。フラットに捉えられがちな絵を“層”で見せるシリーズを始め、その圧倒的な造形力と存在感から国内外で熱い注目を浴びている。すべて新作を描きおろしたという本展のこと、そして彼女自身の制作活動について語ってもらった。
90年代アニメキャラクターの美学とは。ペインターの藍嘉比沙耶にインタビュー
“レイヤー”であらゆる過程を可視化する

── 今回の『ミル・クレープ2』は、2021年の個展『ミル・クレープ』と同じタイトルを冠していますね。
2021年の個展は[アウトライン][process(プロセス)][ぺったん]の3シリーズのみでしたが、今回は[form(フォルム)]が加わりました。4つの作品群を並べる展示は初めてなので、とても新鮮な景色です。

本展の16点はすべて新作で、半年以上かけて準備をしました。実は、いつもより小ぶりなサイズにしたんです。これまでの個展はF100号(1620×1303mm)前後のキャンバスを使用していましたが、今回はS20号(727×727mm)前後が多いです。前回の個展で[process]シリーズを描いていたときに、直感ですがS20号がしっくりくる大きさだなと思って。そこから、今回はキャンバスサイズから決めるという、制限のある試みをしてみました。
これまで[アウトライン]以外の全作品は一貫して、キャラクターの頭の大きさを大体同じにしていたんです。筆で描きやすい、ちょうどいいサイズ感。そのため、全身を入れるような絵になると、その分キャンバスも大型になる。ただ、今回の展示はその縛りをなくし、別の形態に変化させたいという思いもあって。なので、頭のスケールからではなくキャンバスサイズから決めて、そこに各シリーズにあう構図と密度を考えていきました。

── 展覧会のタイトル、“ミル・クレープ”の由来は?
言葉自体は、大学1年生のときから使っていました。当時から現在のようなキャラクターをアクリル絵具で描いていたのですが、自分が絵においてもっとも魅力的だと感じる点は何かと考えたときに、絵具が重なっている様だと思って。薄く何度も塗っていく、そのちょっとした層がとても美しいし、完成までの過程が刻まれるのも面白い。その様子を表す単語としてレイヤーもありますが、当時使われすぎていたこともあり、なんだかしっくりとこなくて。その中でパッと思いついたのが、 “ミル・クレープ”。今でも惹かれる言葉なので、さまざまなシリーズを展示するときの総称として、展覧会のタイトルにしています。
インスピレーションのもとである日本の90年代アニメも、私の絵と同様にフラットに見えますが、その裏には背景とセル画という物理的な重なりのほかに、いろんな人が何度も原画を描き直したり色を塗ったりなど、さまざまな過程の重なりがありますよね。
Text_Shoko Ema