絶対に手放せないジャケットや、ずっとそばに置いておきたいバッグ。日々の表現を支える宝物は、いつだってクローゼットの中にある。ファッション好きなあの人が語る、残しておきたいものの話。#残しておきたい宝物
俳優・西田尚美の残しておきたい宝物:メゾン マルタン マルジェラのバッグ
想いが伝わる職人の手仕事

想いが伝わる職人の手仕事
「リボンの結び方で斜め掛けのショルダーにもハンドバッグにもなるし、クラッチ風に持つこともできる。マルジェラ本人がデザインしていた時代の、芸術品みたいな手仕事です」
大切に使われてきたことがわかるまろやかな艶と、本物のトゥシューズを使ったアーティスティックなデザイン。サテン地の小さなバッグは、俳優の西田尚美さんが20数年前、恵比寿にあった〈メゾン マルタン マルジェラ〉の路面店で買ったもの。古着などを加工して新たな形に作り替えるコレクションライン、〈アーティザナル〉のアイテムだ。
「サイズ的にはリップと小銭入れと携帯くらいしか入らない。どうしよう、ちゃんと使うかな。お店の方にそう相談しながらも、たぶん見た瞬間から惹かれていたんです。〝きっとパーティの時に持てるよね〟って、自分に言い聞かせるように買ったのを覚えています」
着るもの次第でいろんな自分を演出できる点が、ファッションを好きな理由の一つだと話す西田さん。1990年代後半にマルジェラをはじめとするアントワープのデザイナーたちの服に夢中になり、以来、時代や流行が変わっても、好きでい続けてきた。
「特にこのバッグのような、人の手で作られたものに愛着を感じます。母が着物や編み物が好きで、小さい頃から手作りの服が身近にあったことも関係しているのかな。大量生産されたものとは違う手触りや繊細なつくりを自分の肌で体験することで、職人さんのストイックな仕事や、作り手の方が込めた想いを感じ取っているのかもしれません。だから、たまにしか使わないとしても、ずっとそばに置いておきたいと思うんです」
買った当初はぴかぴかだったピンクは少し色あせ、サテンの端もちょっぴり擦れている。
「トゥシューズの底革は経年で色濃くなりました。そういう変化も何だか愛おしいですね」
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西田尚美
にしだ・なおみ>> 1970年広島県生まれ。文化服装学院でファッションビジネスを学んだ経験も。出演映画『片思い世界』(監督・土井裕泰)が公開中。日本テレビ系ドラマ『恋は闇』に出演中。
Photo_Toshio Kato Text_Masae Wako