今日も世界のどこかで大迫くんは走っている。ときどき更新されるインスタグラムの投稿を朝起きて見つけては、ぼんやりと思う。小さな子供がアニメのスーパーヒーローに憧れるのと同じ理由で、僕はスポーツ選手が一番格好良いと思っているし、憧れている。
2017年のボストンマラソンレース後、写真を撮らせてもらう約束をしていた。 ホテルのロビーに現れた彼はいつもと変わらずのポーカーフェイスで、 素晴らしい結果に興奮しているのは僕だけのようだった。 歩きながら、雑談しながら、何枚か写真を撮った。 ゴール地点に近いせいか大勢の人でごった返していた。
大迫くんに気がついた大会スタッフの男性が一緒に写真を撮ろうと声をかけてきた。彼は快く引き受け、少しぎこちない笑顔でiPhoneの画面に収まっていた。別れ際、お礼を伝えてから、 前日に自分の娘へのお土産と一緒に買っておいた ボストン・レッドソックスのマスコット人形を娘さんへと手渡した。
「ありがとうございます。喜ぶと思います」 〝グリーンモンスター〟という名のマスコット人形は、 彼の表情を一瞬にして緩ませ素敵な笑顔を見させてくれた。
当然のことだが、プロランナーとして彼にも守るべきものがある。その意志が強ければ強いほど、鍛錬と節制が必要になるのだろう。 僕は、自分が応援する選手の可能性を信じて写真を撮りたい。相手からすると、かなり身勝手な期待をかけられて迷惑でしかないかもしれないが、 僕にはどこまでいっても応援することしかできないし、それを忘れないことが大切なことだと思っている。
翌日、空港のロビーでお母さんと手を繋ぎ緑色の人形を首に巻いて楽しそうに歩く、 日本人の小さな女の子を見かけた。もしかしたら、大迫くんも娘さんの素敵な笑顔を見れたのかもしれない。そうであって欲しいと思った。