夜の体育館は黄色い床のせいか、空間全体がオレンジ色に染まっているようだった。
その中でコートの白線はひたすら白く浮かび上がって見えた。
栗原恵は今年の春、現役を続ける決断をして新たなチームに加わった。
2012年、岡山のチームに所属していた頃に彼女を一度だけ撮影したことがある。
真夏の撮影だったが、仕上がった写真は透明感があり涼しげだった。
何より笑顔が印象的で、またいつか撮りたいとずっと思っていた。
「ただ好きで続けるってずっと思ってたんですけど、実際好きなことを続けることもすごく難しいなと思うことは沢山あって。好きだからこそ悩むこともあったし、うーん…、何ですかね。やり残したものがあるのかって言われたら、それも何かちょっと違って。そのつどそのつど、やり切ってきたし、バレーボールにだけは真摯に向き合ってきた中で、自分の中で貫いてきたという自信もあるので、今すぐやめても全然後悔はないって常にここ最近は思っていて。初めて本当に引退かなって思ったんですけど、声を掛けてもらったのが、私が18歳で全日本に入った時にお世話になった選手が監督をしているチームなので、やっぱりそこはすごく大きくて。その時からずっと見てくれている人に、もう一回今の年齢で一緒にやろうって言ってもらう意味が重かった。昨年準優勝しているチームだからほんとに私が必要なのかな?と、逆にちょっと思ってしまって。そこに飛び込む勇気というのもすごくあったんですけど、必要としてもらえることに関しては素直に嬉しかったので、今の年齢でしかできないことにチャレンジしてみようかなっと思って、続けてます」
時折見せる素敵な笑顔は相変わらずで、こちらまでポジティブな気分にさせてくれる。
撮影でも彼女はとてもリラックスしているように見えた。
僕が使うフィルムカメラに興味を示してくれたり、チームメイトと一緒に写真を撮ったり、
ボールを拭くのは当番制で回ってくることを教えてくれたり。
毎日のハードなトレーニングの中でも、きっと今は充実した良い時間を過ごせているのだろう。
帰りは体育館の外まで見送りに出てきてくれて、握手をして別れた。
振り返ると車に乗った僕らに彼女は最後まで手を振ってくれていた。
あの夏の日と同じように今日も彼女は眩しくて、また会いたいと思った。