〈Y/PROJECT〉のグレン・マーティンスが〈ディーゼル〉のクリエイティブ・ディレクターに。そのビッグニュースが駆け巡ったのは昨年の10月。2021年6月21日、待ちに待ったデビューコレクションがライブストリーミングで発表された。ディーゼルという世界的なブランドに対する思い、ムービーやコレクションに込めたメッセージとは?グレンに話を聞いた。
〈ディーゼル〉新クリエイティブ・ディレクター、グレン・マーティンスがデビューにかけた思いとは?

―コレクションのインビテーションとしてベネチアングラスが届きました。同封されていたカードには、イタリアのガラス吹き職人、マニュエル・クレスタニが手がけた作品で、「大人のおもちゃ」とありましたが…?!
グレン・マーティン(以下、グレン):まず第一に、パンデミックの影響を受けた地元のスモールビジネスを支援したいと考えました。そこで、地元ベネチアで活動するマニュエルにハンドメイドのオリジナル作品を依頼したんです。「大人のおもちゃ」にしたのは、僕たちが〈ディーゼル〉だからです!いつものように大胆で型破りなものにしたかったので。
―ディーゼルとは、どんなブランドだとお考えでしょうか。
グレン:楽しさが爆発していて、人生を楽しめる、アクティブなブランドだと思います。
―グレンさんがディーゼルを知ったのは、いつ頃なのでしょうか。
グレン:16歳くらいの時、どうしてもほしくて初めて〈ディーゼル〉のジーンズを買いました。「〈ディーゼル〉がほしい」と思いながら育った世代の人たちにはその気持ちがわかってもらえると思います。ですから、クリエイティブ・ディレクターに就任できるなんて本当に信じられませんでした。
―クリエイティブ・ディレクターに就任後、まず何に取り組まれましたか?
グレン:会社の構造や過去に行ったビジネス、これからブランドがめざす方向性を時間をかけて理解していきました。
最も重要だと思ったのは、美しい服を作るだけではなく、さまざまな背景や独自のストーリーを持つ多様な人々に語りかける責任がある、ということでした。アーカイブも参照しましたが、ほとんどが記憶にあるもので、かつ今見ても新鮮であることに驚かされました。
―ムービーの主人公はトランスジェンダーのモデル、エラ・スナイダーが務めました。赤い髪をしたエラが冒頭走りだしたので、、ディーゼルのロゴから連想して映画『ラン・ローラ・ラン』(1998)をイメージしたのかな、と思いを巡らせてしまいました!
グレン:当初は主人公は〈ディーゼル〉のロゴから赤い髪と白いTシャツ、と決めていただけだったのですが、撮影していくうちに『ラン・ローラ・ラン』のような映像になりました。意図的ではなかったのですが、うれしい偶然でした!
―ムービーのストーリーにはどんなメッセージを込められたのでしょうか?
グレン:深夜の家のシーンから始まり、都会の街並み、そしてエレベーターに乗っているシーン。最後は、深紅のフィルターがかかったトリッキーで異質な部屋で締めくくられます。4つの異なるフェーズにおける主人公の変化と進化を、現実と夢の境界線を曖昧にして表現しました。今はまだ始まりにすぎませんが、新しい現実に足を踏み入れようとしている混乱した社会を反映させたんです。
―コレクションにおいて、グレンさんらしさはどんなところに表れているのでしょうか。
グレン:僕は非常に実験的であることで知られていると思いますが、〈ディーゼル〉では加工や素材・色・グラフィックのミックスにおいても実験を試みました。たとえば、ブレザー、シャツ、ジーンズにレーザープリントを施し、レイヤーやしわをトロンプルイユで表現しています。ジェンダーレスなアプローチをしているところも僕らしいと思います。
―〈ディーゼル〉のアイコニックな素材、デニムも前面に打ち出されていました。
グレン:使い勝手がよく、世界中のあらゆる人にアクセスできる最も民主的な素材であるデニムは、ブランドにとって昔も今も、そしてこれからも核となるエンジンです。
―グレンさんはクリエイティブディレクションを務める〈Y/PROJECT〉でも積極的にサステナビリティに取り組んでいらっしゃいますが、〈ディーゼル〉も昨年「FOR RESPONSIBLE LIVING(責任ある生き方)」を発表し、人々と環境に配慮した責任あるビジネス戦略の実施を正式に明言しています。
グレン:世界的なブランドのトップに立ったわけですが、今日にこうした地位につき、力を持つ意味合いを考えなければなりません。そこで原材料の調達から、生産・物流・販売を経て、製品が消費者の手に届くまでの全過程を見直し、まずブランドのコアであるデニムアイテムで構成された「ディーゼル ライブラリー」を導入しました。
半分をパーマネントモデルとして展開し、全てのアイテムはサステナブルな繊維、洗浄、加工方法で生産しています。各アイテムに取り付けられるタグに印刷されたQRコードをスキャンすると専用のウェブサイトにアクセスでき、どのように作られたかを知ることもできる。わずか半年で実現できたことは驚くべきことだと思います。
―デニムのアイテムは絶対に手に入れておかなければなりませんね…!GINZA読者におすすめのルック、アイテムはありますか?
グレン:主人公が着用しているデニムのパンタブーツはずっと着られるし、何にでも合わせられます。より実験的なのは、プリントやスモークカラーにかすれたペイントモチーフを加えたオーガンジーのアイテムです。どこから始まってどこで終わるのかわからないような、サイケデリックなスニーカー”PROTOTYPE”もおすすめですよ。
―最後に、今後の展望を教えてください。
デニムの高い技術を誇りに思い、引き続き社会的でサステナブルなブランドになることを目指したいです。そして早く通常のファッションウィークに戻って、皆さんに実際にお会いできることを願っています。
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グレン・マーティンス
1983年ベルギー生まれ。アントワープ王立芸術アカデミー卒業。2013年より〈Y/PROJECT〉のクリエイティブディレクションを手がける。20年10月〈ディーゼル〉のクリエイティブ・ディレクターに就任。