フランス拠点・ファッションブランド「Jacquemus(ジャックムス)」がデザイナーの故郷とほど近いマルセイユにて展示「Marseillu Je T’aime」を開催中。若手クリエイターを支援する団体・Mediterranean House of Fashion Trades主催の「OpenMyMed Festival」の一環で特別ゲストとして開催する企画です。デザイナーのSimon Porte Jacquemusが展示をキュレーションするほか、アートブックも刊行。

Photo by David Luraschi / Performance by Willi Dorner
「ただマネキンに服を着せるだけの展示は行いたくなかった」と語る彼は、本展にて映像、写真、インスタレーションなど様々なアプローチからブランドを表現しています。中には、デザイナーが初挑戦した彫刻作品も並び、服以外の表現から彼の表現を垣間見えることができるはず。鮮やかな夕日が降り注ぐ中、自身の故郷に捧げる17S/Sコレクション「Les Santons de Provence」のスペシャルショーも開催。
アートブックは、16A/Wシーズンより広告を共同制作しているフォトグラファー・David LuraschiやVetementsの写真集を撮影したフォトグラファー・Pierre-Ange Carlotti、17S/SにてMarniとカプセルコレクションを展開したアーティスト・Ruth Van Beekによる作品など総勢15名のアーティストを迎えた書籍となります。

Photo by David Luraschi
ハイブランドが犇めくパリからVetementsやY/Projectなど若手ブランドがデビューしていく流れをいち早く作ったであろうJacquemus。19歳の頃にファーストコレクションを発表したのち、毎回行うショー会場に、プールやゲームセンターを起用する他、来場者にはスモッグを被せるなどユニークなアプローチで人々を驚かせてきました。
ブランド立ち上げから7年目、27歳になった彼は今や年間6億円規模を回すデザイナーに。(Bussiness of Fashionより2017年度予想合計売上)そんな彼の隣で今回のプロジェクトを制作した15名のアーティストの中から、3名のアーティストへ話を聞きました。
16A/WシーズンからJacquemusの広告写真を手がけているフォトグラファーDavid Luraschiにとって、Simonとのコラボレーションとは「Simonと僕は数年前に出会い、実際に僕の親しい友人たちも彼と仕事を行っていました。だからこそ彼との活動はとても自然に始まり、最初の撮影からカジュアルでリラックスな雰囲気を共有できていたと思います。そしてSimonの作り上げるカルチャーに親和性を感じ、今回のプロジェクト内容の通り、彼は母国にとても誇りを持っています。正直で素直な彼にもとても魅力を感じるとともに楽しんで仕事に取り組めます。
撮影の際は、彼がとてもクリアなアイディアを持っているので、イメージに近づけるように出来るだけの努力をします。僕自身フォトグラファーとしてクレジットに載りますが、実際は彼が写真の著者なんです。彼との信頼とダイアログが益々深まることが、今後の彼との仕事にもワクワクする理由です。Simonと彼のチームに毎回とても刺激を受け、とても感謝しています。」

Photo by David Luraschi
パーソナルワークでは、ストリートにいる人々の背中を撮影するシリーズを制作。エディトリアル、パーソナルワークともに彼が人を捉える姿は、ただのポートレイトというより「その人の個性」自体をもカメラを通して写しているように感じます。「写真・映像への主な興味は、常に人に向けたものです。おそらく両親と遊んでいたこと、父が兄弟を撮影していたことなど、幼少期のことが多く関係してきていると思います。例えば写真を使って、ごっこ遊びや誰かになりきってみたりゲームのように楽しんでいた記憶があります。なので、いまプロとして活動していることは、幼少期に両親とリビングルームで遊んだことが直接的に影響しています。1つ言いたいこととすれば、おそらくフォトグラファーは、ただカメラを持っていればいいわけではないと思います。フォトグラファーは、写真の中と外を表現した総体的なものです。外に出ること・良い場作りをすることは、強いヴィジュアル制作にとって良いきっかけを生むはずです。」
Luraschiとともに16A/WからJacquemus広告写真の振付師として参加しているアーティスト・Willi Dorner。CGかと思う複雑な人の重なりは、実際に人を積み上げているパフォーマンスから成り立っています。普段は世界各国の街でパフォーマンスを行う彼が、このようなパフォーマンスを始めた理由は一体なぜでしょうか?「「体」は人間と都市、建築を結ぶ政治的なメッセージだと思ってます。私たち含め都市の住民は、街を自由に駆け回らなければいけないです。都市はコモディティ状態になり、ディベロッパーや個人事業主は、特定の地域から利益を得ることに興味を持ち始めています。市民である私たちが自由な空間を求める限り、それは市場的に自由な建築でさえも高騰してしまいます。そのような状況において、私たちが住んでいる場所に興味を持ってくれる住民が増えて、彼らになにか決意してほしいと思ってます。自分たちのプロジェクトを通して、自然と人々が街を歩いたり周りにある建築を見たり、街並みや街の変化に対して意見を持ったりします。インスタレーションによって、現代空間への理解を深めたり、彼らが何か声をあげてより良い生活・都市に住むのために議論を交わしてほしいです。」Jacquemusの16A/Wシーズンでは、Simonが直接彼の作品からインスピレーションを受けて、広告写真にも起用したそう。

Willi Dorner: bodies in urban spaces. Photographer: Lisa Rastl”
Marniと17S/Sシーズンにてカプセルコレクションを発表したアーティスト・Ruth Van Beek。違和感の感じるコラージュ作品が特徴的。既存の素材のフォーマットから写真、背景、影、人などのヴィジュアルコードを切り離し、彼女の作品独自のヴァジュアルカンバセーションを再構築していきます。「Philippine Chaumont と Agathe Zaerpourから繋いでもらって連絡がきました。Jacquemusの作品紹介をしてくれて、今回の書籍のためにスペシャル作品を制作できないか連絡をくれたんです。新しいシリーズを制作するにあたり、ただ1つマルセイユと何かしらリンクするもの、という条件のみで自由にクリエーションができたと思います。幼少期に休暇をマルセイユ付近の海辺で過ごして良い思い出ばかりだったので、すぐにそのアイディアを気に入りました。それで小川、岩だらけの海岸を変形させたシリーズを制作しました。彼らは小さな造形に変わり、花と一緒に生き残っています。それらの様子はまるで小さな家族のようで愛らしいのです。」

Artwork by Ruth Van Beek
Instagramの人気とともに、コラージュ的なヴィジュアル制作で一躍注目を浴びたJacquemus。SNSと時代の流れによって、不安定に若手ブランドが浮き沈みする中、彼独自のフランスのリアルライフを描いた世界観は益々多くの人々に愛されている。
本展の展示開催の模様は、JacquemusのInstagramでぜひチェックしてみて。