ファッション批評誌『Viscose Journal』をご存知だろうか? 編集長イエッペ・ウゲルヴィグへのQ&Aとともに、ファッションにまつわる知的なディスカッションを紹介する。
ファッション批評の未来を育む。「Viscose Journal」をご存知だろうか?

昨年刊行した『ISSUE 03: ASIAS』より、日本でのディストリビューションも開始。1993年生まれのイエッペ・ウゲルヴィグは、コミュニケーション、批評、キュレーションの分野で修士号を取得し、冷静な距離感を保ちながらファッションと向き合ってきた。NYとコペンハーゲンを拠点とし毎号異なるテーマを設け、キュレーション的観点から『Viscose Journal』の考察を繰り広げる。最新号『ISSUE 04: TRANS』を2月にリリースしたばかりの彼に話を聞いた。
──『Viscose Journal』をローンチしたきっかけは?
「ファッションに対する批評性を育む、知性を持ちあわせた雑誌を作りたいという夢みたいなアイデアから『Viscose Journal』は始まりました。私たちはひとつの分野に留まることなく、ファッションについて幅広く議論できる場をずっと切望していて、理想的なフォーマットを見つけるまで長い年月がかかりましたが、コロナ禍の2021年についに創刊することができたんです。行動制限により本屋でイベントを開催することができなかった私たちは、ベルリン橋の上で発行を祝いました」
ISSUE 01: STYLE
『ISSUE 03: ASIAS』にてアシスタントエディターを務めた香港出身のライター、チュオ・ウンとも仲良し。この雑誌を通してファッション批評の面白さに気づいたと話す点子に、各号を紹介してもらいました。
ハンドバッグをかたどったユーモラスな装丁とは裏腹に、ページをめくるとジャンルレスな寄稿者によるテキストがびっしり。特に印象に残っているのはファッションとアートの関係性について議論した「Buy and Let」という記事。
──作家やアーティストなど、さまざまな分野の執筆者が参加していますが、どのようにコントリビューターを選んでいますか?
「私たちは丹念なリサーチを欠かしません。毎号テーマを決めて、それぞれのトピックについての専門家やユニークな視点を探求することを心がけています。その結果、ファッション以外の分野、たとえば美術評論や研究機関、資料に行き着くこともしばしば。このプロセスにはやり甲斐を感じていて、私たちにとって宿題のようなもの。その成果を読者に伝えていきたいと思っています」
──2020年代のファッションについて、どう考えますか?
「『Viscose Journal』の構想が生まれたのが2020年。ファッションのデジタル化、トレンドのスピード感、そしてあらゆるもののコンテンツ化が進んだ、パンデミックの年でした。私たちはファッションのTikTok時代に生きていて、2020年はそれを象徴する年として記憶されるのでしょう」
──現代を取り巻くアーカイヴ・カルチャーについて、思うことを教えてください。
「とても重要なことですよね。アーカイヴについての関心が、リサーチをより重視し、過去に対する興味を抱き、現代社会への疑問符を投げかけてくれるなら、私はハッピーです。アーカイヴへの情熱が“クォリティ”につながるとは限りませんが、“新しさ”にもまた同じことが言えると思います」
──ファッション批評の現在の状況は?
「正直なところ、よい状況とは言えず、ファッションにおいて“批評”は存在しないと言えるかもしれません。私たちは『Viscose Journal』を通して、研究や学問とも交差する言説を少しでも補えたらと思っています。しかし年2回の発行を考えた時、優秀かつインディペンデントで、勇敢なファッション批評家はまだまだ足りません。残念なことに、最近のライターの多くはマーケティングとプロモーションに取り込まれているのです」
──ユニークなブックデザインについて教えてください。
「イシューテーマに沿ったアプローチは、表紙やレイアウトデザインにも反映されています。トピックスと関連するイメージ、モチーフを挙げ、何がデザインに置き換えられるかを考えていくのです。アーティスト・ブックやコンセプチュアルな本作りのヒストリーからインスピレーションを得て、手に取った人がコレクションしたくなるようなものを作ることを目指しています。紙について、技術的なことについて多くを学ぶことができますね」
──次号の構想について教えてください。
「重要な位置づけにある“RETAIL”がテーマです」
ISSUE 02: CLOTHES
興味深かったのは〈ヨウジ ヤマモト〉の2000年春夏コレクションを軸に、日本の不良文化を考察したChristian Alborz Oldhamの記事。友人の写真家Carl Gustaf von Platenのエディトリアルも最高! ミニチュアの視点からプロダクトを捉えています。
ISSUE 03: ASIAS
友人のチュオ・ウンの父は香港の巨大なスラム街、九龍城砦出身。経済成長を遂げショッピングモールブームが始まった90年代後半から2000年代前半の香港で育った彼女の記事「MALL RATS (IN A MALL CTY)」が掲載されています。
ISSUE 03: TRANS
発売したばかりの最新号を読むのが楽しみ! 中でも1970年代よりトランスジェンダーのポートレートを撮影してきた二本木里美の特集ページに注目しています。このイシューを通して、ファッションとTRANSの相互関係について知識を深めたい。
最新号『Viscose Journal ISSUE 04: TRANS』はtwelvebooksにて100部限定で発売中。ISSUE 01はHPでも読むことができる。9月には東京でのイベントも企画しているそう。