西洋の衣服は、長い間男女間の差異を生み続けてきた、と東京都庭園美術館学芸員の西美弥子さん。その端緒は14世紀までさかのぼるという。
「男性が上衣とズボンとに分かれた上下二部式服を着用し始めたのです。けれど、女性たちはそれまで同様ワンピース型の衣服を踏襲しました」
機能的な新型は肉体労働の比較的多い性に限定されたということか。着衣は地位の表象も担うため、特に王侯貴族の男性の装いはゴージャスに進化する。その傾向が、19世紀中葉にはたと落ち着いた。
「色や飾りにあふれた衣装が、グレーや黒を基調としたシックなものへと変わります。その代わり、彼らの妻や娘のドレスがどんどん華美になりました。男性にとって、女性に派手な格好をさせることは富を誇示する手段でもあったのです。機能的=男性服、非機能的=女性服という構図も強化されました。また、欧米では異性装を禁じる聖書の影響もあり、性差を超えた装いはタブーでした。現在、パンツなどのもともと“男性装”のスタイルを楽しめるのは、20世紀以降女性が服装の選択肢を獲得し続けてきたからです。ただ、ジェンダーレスと言っても、男性が気軽にミニスカートをはくような越境はまだ完全には広まっていないと思います。女性が装飾や非機能的な構造を引き算するよりも、男性が要素を足していくほうが、社会的・心理的ハードルが高いのかもしれません」