メンズ服の本質は、時代を超えて愛され続ける、定番の探究にあると言える。ここではオーセンティックな2アイテムを議題とし、歴史と背景を知った上で私たちがうまく取り入れるヒントを、識者にレクチャーしてもらった。
栗野宏文さんに聞くメンズアウター&チノパンの魅力
普遍的メンズアイテムの神髄 01
ヘビーデューティー・ジャケット
街着として取り入れられてきた機能が形になった実用品の魅力
長く愛用するメンズアイテムとしてまず挙げられるのが、実際に使用する場面を想定し作られた、耐久性のあるアウターだ。ここでは代表的な3点を取り上げる。
トップバッターは、1894年創業の〈バブアー〉のワックスドジャケット。現在も英国・サウスシールズに本社を置き、ジャケットの一部は、イギリス国内の工場において手作業で製造・修理されている老舗だ。
「〈バブアー〉と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、ワックスドクロスです。寒さ厳しい創業地の港町で働く労働者のために、撥水・防風加工したのが始まりと言われています。僕は同ブランドと1970年代に出合い、以降ずっと見ていますが、最近は、無臭、ベタつきを極力抑えた、日常使いにふさわしいワックスが使用されているようです。
80年誕生のアイコンモデル〈ビデイル〉は、乗馬用のジャケットとして開発されました。ライディングスタイルに適した短めのレングスや、サイドベンツが特徴です。着こなしの参考は、ケーブルTVや配信サービスで視聴可能なイギリスのドラマ。デビッド・スーシェの『名探偵ポワロ』シリーズや、ジェレミー・ブレット主演『シャーロック・ホームズの冒険』などのミステリー番組は、衣装と美術が素晴らしい。近年では『ヴェラ』や『シェトランド』も。それらのドラマに登場するキャラクターが、おしゃれからではなく、釣りや狩猟に行く際に〈バブアー〉を羽織っていたりするわけです。本来の目的と場所に一番合った装いなので、やはり素敵ですよ。従って、英国由来の服のそもそものスタイルに関しては、TVドラマシリーズを観ることをおすすめしたい。
また、面白いことに、日本では独自の発展がなされています。敬遠されていたワックスを抜いたジャケットを製作。現在ではそのノンワックスが定番として各国のラインナップに加わっています。 トラディショナルなルーツを持ち、トレンドに関係なくよいものの代表格が、〈バブアー〉と言えるでしょう。ガンガン使うものだから、頑丈にできている。いわゆる"本物"には、ずっと生き残ってきた理由があります」
Illustraion_Hitoshi Kuroki Text_Mika Koyanagi