銀座の街を色付けているもの。おしゃれな大人とか観光客とか、きっといっぱいあるけれど、一番はショーウィンドウだと思う。だってここは、お買い物の街。季節を映し、モードを映すディスプレイの前を通るだけで、気分が華やいでくるんだから。このコラムでは、編集クロが銀座を歩いていてふと見入ってしまったショーウィンドウをご紹介。「うっとり」という言葉がこんなに似合う窓、他にない。
FROM EDITORS 銀座より。うっとりショーウィンドウ日記
六月某日。展示会周りの合間に、梅雨入りして間もない銀座を歩く。
日比谷方面から晴海通りに入ると、まず出会うのが〈エルメス〉。いくつもの色で彩られたな壁と、砂糖菓子の岩。キラキラした甘い世界に、物の見事に一目惚れしてしまった。
街に現れたレインボーの空間。
「虹のなか」をテーマにしたディスプレイは、Pip&Popなるアーティストによるものだという。スカーフ柄のセットアップをまとった女性は、宝探しのように不思議の世界を歩いている。
すっかり魅入られた私がふらふらと近寄ると、カラフルなオブジェに混ざってバングルが置かれていた。砂糖菓子の合間にきらめくキャンディのようだ。
夢のような色彩。いつまでも見ていられる。
〈エルメス〉のすぐ隣には、〈コーチ〉の楽しげな世界が広がっていて、また足が止まってしまう。
まさに、ワクワクが詰まったウィンドウ。
ディズニーとのコラボレーションコレクションは今シーズンで3回目。まじまじと眺めていると、コーチの人気モチーフ・恐竜のレキシーがエンパイアステートビルによじ登っていたりして、ニューヨークらしいユーモアについ笑みがこぼれる。
ビルの窓には灯りも。細かいあしらいを見つけると嬉しくなる。
そして数歩後ろに下がって全体を見てみたら、二段に積まれたカラーボックスがNEW YORKの文字の形をしていることに気がついた!(あれ、皆さん写真を見てすぐに気づいてました・・?)こういうの、心踊るなぁとつくづく思う。寄り引き自由自在で、両方ワクワクする。ショーウィンドウは、極めてアナログでリアルなメディアだからこそ、こういう楽しみ方ができるのかもしれない。
歩を進めて銀座四丁目の交差点。ここでは、街の名物でもある〈和光〉のディスプレイに遭遇する。
バニラアイスも浮かんでいるよ。
そう、クリームソーダ!しかもチェリー入り。幼い頃の淡い夏の思い出が、突然ポップ&ビッグになって蘇ったようだ。実は、氷の間に浮かんださくらんぼは、ゆっくり上下に動いている。そうきっと誰かが、緑と白のストローでクリームソーダをかき混ぜているのだ。
実は地下の銀座駅構内にも同シリーズでディスプレイが展開されている。
こういう小さなショーウィンドウも大好き。
夕張メロンソーダかな?などど勝手に妄想が膨らむ、オレンジ色。飾られているグラスにもうっとり・・・していると、見つけた‼︎見よ、この小さな鯨を。
思わず二度見してしまった。
氷の淵から今まさにグラスめがけてダイブしようとしている。なんて物語性に富んだディスプレイなんだろう!足早に通り過ぎるだけでは気づけないウィットの宝庫。それがショーウィンドウだと、思い知った。
さて鯨の興奮冷めやらぬままに、地上に戻って三越の前へ。ちなみに帰宅時に地下鉄へと急ぐ私の心を慰めてくれるのは、いつもここのショーウィンドウだ。
この日はレースのカットワークが初夏らしいトップとスカートが展示されていた。背景には爽やかな風車がいくつも連なる。鳥だって飛んでいる。立ち止まって見ていたら、窓の中ではときおりきちんと風が吹いている!そしてその度に、風車がくるくると回り出す。
風車が回ると、青い鳥も動く。
音こそ聞こえてこないけれど、忙しい交差点の只中で目にする風車に何とも言えない心地よさを感じる。
そのまま中央通りを京橋側に進み、松屋の前を通る。松屋の1Fには〈ルイ・ヴィトン〉が入っていて、そのショーウィンドウはとても大きい。引き寄せられるように、歩みが止まる。
マネキンのしぐさや表情も演出されている。
ディスプレイには、ソーラーパネルを背景にして立つ三人の女性。夜に通りがかると特に迫力満点。中央通りを見下ろしながら煌々としている。なんとこのパネル、本当に太陽光発電ができるものを使用しているらしい!ショーウィンドウは普通商品以外は「本物」でないことが多いし、それが味でもある。でも、あえて本物が出てくることで、洋服とその意志あるリアリティが合わさってすごいエネルギーを発している。
そこから隣の〈ブルガリ〉に行くと、ショーウィンドウの愛らしいムードに胸が温まる。
窓の中の小さな小さな公園にて。
AMOR(愛)という文字の前に、小さなベンチ。そこに、まるで恋人同士が腰掛けるようにちょこんと置かれた、エンゲージリングとピアスのボックス。心の中で「わぁ」と叫びながら、ガラスに顔を近づけて見惚れる。
こちらはLOVEが背景に。
ブランコバージョンも並んでいる。ショーウィンドウって、ファンタジーとものすごく相性がいいと思う。それはきっと、この愛すべきフィクション性のためだろう。作られた世界は、ガラスに囲まれて夢を放つ。ブルガリタワーのふもとでうっとりしながら、そんなことを考えた。
註)現在、「三越」は「夏祭り」をテーマにしたディスプレイに、〈ブルガリ〉はは6月18日に「フェスタ イタリアーナ(イタリアの祝祭)」がテーマのディスプレイに、切り替わっています。ショーウィンドウは季節とともに移りゆくもの。今後もかわいいものを撮りためていきます。
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編集クロ
GINZA本誌でビューティなど担当。最近は家のモンステラの育ち具合で季節を感じています。