自称モード界のご意見番プロフェッサー栗山が個人的に気になる若手ブランド、〈マリーン セル〉と〈カイダン エディションズ〉。パリコレ期間中、ショーの合間をぬってデザイナーたちに直撃インタヴューした!
FROM EDITORS 2018年秋冬コレクション vol.4 今注目の、若手デザイナーインタビュー

パリコレが始まってまだ2つ目のショーなのに、「今季最高!」と、思わず叫んでしまったのが〈マリーン セル〉だ。昨年LVMHプライズのグランプリを獲得して初のショーということで興味本位で見に行ったのだが、スポーツやエスニックといったさまざまな要素を大胆にミックスしていてとにかくパワフル。服そのものに圧倒された。
早速後日ショールームへ乗り込みマリーンさんに話を聞いた。
©Stefani_Pappas
──とてもパワフルなショーでしたが、ご自身ではいかがですか?
〈マリーン セル〉がどのような将来性を持っているのかを見せるショーでしたので私にとっては大変重要でした。ブランドらしさを明確に表現できたのではないか、と思っています。
──今回はどのようなことをテーマにしたのですか?
前半は、典型的なアウターウェアを未来を生き抜く服にするために再構築しました。女性らしさを保ちつつ、心地よさや防護性、機能性を重視しています。
ペン、口紅、携帯など、日常の必需品をポケットに収められるジャケット。バックには「FUTUREWEAR(未来の服)」のプリントが。
ブランドのトレードマークである三日月柄のキャットスーツも登場させています。
──ところでなぜ三日月柄がアイコンになっているのでしょうか?
デビューコレクションから使用しているのですが、月は女性を始め、多くの意味を持っていますし、美しい形だと思います。それに、『美少女戦士セーラームーン』が好きなんです!
──そうだったんですか!後半はどのようなことを?
リラックスしたムードを出しました。最後のパートはヴィンテージのアイテムをアップサイクル(付加価値の高いものに作り替える)しています。
マリンスポーツ用のトップとヴィンテージのスカーフを組み合わせたドレス。
ヴィンテージの白いシャツを組み合わせたドレス。
──小物も充実していますね。
体操のボールをイメージしたバッグはおすすめですよ。ベルトループに引っかけたり、斜めがけしたり、いろいろな持ち方ができます。容量もわりとあるんです。
個人的にはこういう「ほっかむり」も今季大いに気になる。
──本当にほしいものがたくさんです…!今後についてはどのようにお考えですか?
徐々に成長していければ。ショーは必要であればやりますが、ずっと続けていくかどうかはわかりません。ショップはあと10年後くらいに持てるといいですね。
さて、次に訪れたのは〈カイダン エディションズ〉のショールーム。こちらは今年のLVMHプライズのファイナリストだ。日本には2018年春夏に上陸したばかり。ブランドを手がけるレア・ディックリーとハン・ラーに話を聞いた。
ショールームに置かれたルックブックのヴィジュアル。
──日本人にとってまず気になるのはブランド名の「カイダン」なのですが…
カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した小林正樹監督の映画『怪談』(1965)にインスパイアされました。手描きのセット、伝統的な楽器、化粧、そして物語がとても美しいんです。幽霊が出てくる不気味な話ですが、ただ怖がらせるだけのホラーではありません。見えているものに疑問を呈し、本質を探ろうとするようなところに感銘を受けました。リアリティのある服にそうした精神を吹き込むことをめざしています。
──恥ずかしながら未見なので、今度ぜひチェックしてみます…お2人はそれぞれどのような役割を担っているのですか?
まずレアがスケッチを描き、その後一緒にコレクションを作り上げていきます。レアが全体の方向性を決め、ハンはディテールを詰めていく感じでしょうか。ハンはビジネスも見ています。
──今季はどのようなことをイメージされたのですか?
いつも場所をイメージするのですが、映画的な、夜の森のシーンが浮かびました。あとはデヴィッド・リンチ監督作品に出てくる悪役です。テレビドラマ『ツイン・ピークス』(1990~91)のボブ、映画『ブルーベルベット』(1986)のフランク・ブースとか。
──服づくりにおいてはどのようなことを試みましたか?
ファー、レザー、パイソンがすべてフェイクなのですが、できるだけきれいに、本物らしく、エレガントに仕上げました。捨て置かれている素材を使用し、職人技を駆使して特別なものを作ることが私たちにとっては興味深いことなんです。
今回はリアルとフェイクの境界をテーマにしているところがあります。このプリントはストリートで見つけた贋作の絵なんですよ。
──深い思索に基づいていながら、どれも日常に着られそうなのが魅力ですね…ブランドの今後はどのようにお考えですか?
今はプレゼンテーションもショーも行なっておらず、個別にじっくり見ていただいています。セレクトショップでのインスタレーションでブランドの世界を表現することも。ゆっくりやりたいですね。
共に、ファッションだけではなく、危険と隣り合わせであったり、使い捨て文化がはびこったりしている社会の問題にも目を向け、深く考えながら服づくりをしているような気がする。それでいて着てみたくなるような魅力も満載。まだ20代~30代半ばの彼らだが、自らの才能に奢ることなく堅実に歩を進めようとする冷静さを持ち合わせている。息の長い活躍を見られそうな予感だ。
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プロフェッサー栗山
独断と偏見による論を自由気ままに披露している自称モード界のご意見番。その自らの好みを貫き通すファッションは周囲に「怖い」と恐れられがち。