それからのクロエの大躍進はご存知の通り。その存在が周辺のアーティストたちにイマジネーションを与えまくって・・・。今でも稀有な存在です。何より彼女はただのカワイコちゃんではない!弱きを助け、仲間を励ます、きっぷのいいお姉ちゃんでもあります。数年前、私がとあるブランドのZINEの仕事をさせてもらっていた頃、友人のジェス・ホルツワースにアートワークを依頼→その作品をデザイナーが気に入りパリ店のディスプレイ に採用→そのディスプレイをミュージシャンのベックが見てジェスにPVの仕事を依頼。というお伽話のようなことが起こりました。それまで、本当、アンタどうやって生活してんの?というくらい貧乏アーティストだったジェス。リタ・アッカーマンと組んでいたブラック・メタルのガールズ・バンド、エンジェル・ブラッド は最高にクールだったけど、今まで映像の仕事とかもしたことないし…。(経験が全くない人に、仕事を依頼するベックの太っ腹さも素敵ですね)

その時、そのニュースに一番喜んだのが他ならぬクロエ・セヴィニー。姉御肌のクロエは、有名になってからもキッズ時代からの友人たちと変わらず接し、サポートをしているのでした。「ジェス、良かったわねぇ! 」と、ジェスの初PV監督作品への出演のオファーを快諾( 実はノーギャラ) 、クロエは仕事の合間を縫ってN・YからL・Aへ駆け付け、二人で衣装を探しに古着屋をめぐったそうですがお金のないジェスのことを気遣って、その衣装さえも自腹で買おうとするクロエ。「ありがとう。今回は予算があるから大丈夫。」とこれは私がジェスから聞いた後日談。顔や体にサイケデリックなペイントをして堂々とダンスを披露するクロエに女子は間違いなく惚れます。
BECK 『Modern Guilt 』“Gamma Ray” 2008年
その後L・Aでジェスと撮影の仕事をする時に、ついにクロエと夜遊びする機会に恵まれました。もうドキドキですね。やったぁ!生クロエ!
L・Aのダウンタウンのクラブでカウンターに、もたれて立っているクロエの美しいこと!この日の彼女のいでたちはちょっぴりグリッターな黒のミニワンピに、同丈のパワーショルダーの黒のロングジャケット。素足に自身がデザインしたオープニング・セレモニーのベルトがいっぱいついたウェッジソールブーツ。(ちなみに、このブーツを友人たちにあげまくってた)「彼女は私たちの誇りなのよ。きれいよね〜!」とジェス。その夜は、「南西部の田舎からわざわざバスを乗り継いで、この夜のバンドを見にきたの!」という、歯のブリッジが可愛いギークな20代前半らしきカントリーガールの話しをクロエは丹念に聞いてあげていました。一人でドキドキしながらはるばるやってきたL・Aの夜に、こんな素敵なお姉さんに色々話しを聞いてもらえたら、これからの人生、変わっちゃうかもしれないくらいラッキーなことだわね〜と、同時に、初対面の女の子に本気で興味を示して、対応しているクロエって人間として素晴らしいと眺めていました。
翌日の夜も一緒ご飯を食べながら、「ちょっと見て!あの人たちすごい刺青!」と、L.A.にありがちなマッチョ男性二人組みにクロエとジェスは目を見張り、「私なんか指にちょっといれたタトゥーをママに見つかったら殺されるし!」とか「有名なアーティストのテレビ番組に呼ばれてるけど、 何を話していいか分からないからどうしよう〜。緊張する」と他愛もない話しをするクロエ。その普通さにますます好感度アップ。
この日の彼女の装いはエグルストンの写真集に出てきそうな、南部の香り漂う小花柄の超ミニな(子供用?)くちゃくちゃの古着のワンピースに毛玉だらけのロングカーディガン。どうやら、裾丈をあわせて、引き締まった長い足を思いっきりだすのがクロエ流スタイルのよう。「N・Yの撮影の時はウチに泊まれば良いんだからね!」と言ってくれましたが、「大丈夫クロエ、今回はホテル代がでる仕事だから」と親しき仲にも礼儀ありのジェスが断り、あーも〜泊めてもらいたかったぜ。

雑誌「apartmento」に掲載されたクロエの家。うう、素敵すぎる。
それから、ジェスはベースメント・ジャックス、M.I.A.等々 のPV監督をすることになるのですが、中でも素晴らしいのが伝説のガールズ・バンド、スリッツのPV。アリ・アップと仲良しのクロエが自らジェスを売り込んで仕事をとってきたのでした。すごいぞ!女の友情。ガーリー・ムーブメントといわれた90年代初頭に巻き起こったサブカルチャー。そのど真ん中にいたクロエ・セヴィーニと仲間たち。
あれから十数年、キャリアを積んだクロエはこのPVの中でニット帽にサテンのスタジャンを着て、ピチピチのジーンズでお尻を突き出し、たくましくて骨太な美しい姿を私たちに見せてくれます。それは偶然にも、ガーリーなんて言葉もない70年代の終わり、ほとんど楽器も弾けないのにステージに立ち、初めてのガールズ・パンクバンドとして、それ以降の女子たちの音楽活動を多いに勇気づけたスリッツ最後の作品なのでした。アリの突然の死に際して語った、(アリ・アップ2010年10月20日、48才の若さでガンのため死去)スリッツのギタリストだったヴィヴ・アルバータインの言葉が、わたしにはクロエへの称賛とも受け取れてしまいます。
「アリの最大の魅力は、スリッツというバンドを通じて、どんな容姿の女性でも自分はこれで良いんだと、安心して楽に感じることのできるようにしてくれたことです。アリは女性らしさというものを祝福し、その喜びを見出していた人でした。ステージにいても、そうでなくても、どんな時でも官能的な魅力が備わっていて、どんな女の子でもアリを見ているだけで元気をもらえたものです。これは本当です。アリの生き様そのものが革命的だったのです。」
The Slits – “Lazy Slam” 2009年