2018年10月にデビューした韓国人シンガーソングライター、Moon。デビューからわずか1年半ながら、すでにGRAYやSik-k、Simon Dominicなど韓国ヒップホップシーンを代表する名だたるラッパーとのコラボレーションを重ねていることで注目される気鋭の存在だ。すべてを素直に話す穏やかなインタビュー中の彼女とは異なり、新曲『WOO』では現代の女性らしいセクシーさを堂々と見せる。ステージ恐怖症だった10代のこと、普通の大学生からSMエンターテインメント所属の歌手としてデビューするまで、新たな自身の魅力の発見など、ざっくばらんに話を聞いた。
ソウル発、気鋭のシンガー・MOONの自己プロデュース力「ヘルシーでセクシーな自分の魅力をいかに出せるか」
──今回の新作は、2018年にリリースしたデビュー曲『MILLION』とまったく違う印象ですね。髪色も金髪に変わり、MVでは自身の姿にフォーカスを当てているような。
自分の魅力を存分に出せる見た目に変えたいとは常々考えてはいたんですが、今回はまずリスナーのリアクションを伺う第一歩としてリリースしてみました。全体のイメージとしては、なにか近未来的なことを描きたいと思って、でもただ単に未来的な要素を入れてもつまらないから、2000年代初頭の時代感やブリトニー・スピアーズやイ・ヒョリなど女性歌手の雰囲気からインスピレーションを得ました。ヘルシーなセクシーさを魅せる彼女たちのかっこよさを、わたしなりに現代的な解釈をしてアウトプットしてみたかったんです。
──韓国の同世代の女性歌手たちも、いままでの典型的な女性としての美ではなく、自分なりの新たな美しさを見せているように感じます。
わたしの場合、もともとモデルのように極端に細くて背が高いわけではなく、だからといってそういう典型的な理想像に合わせる必要もないと思ってて。ヘルシーでセクシーな自分の魅力をいかに出せるか、スタイリストのPark Annaと話し合って、MVでも〈I AM GIA〉 のタイトドレスやミニスカート、ミニトップスなど身体のシェイプをわざと誇張するような衣装を用意してもらったり。MV制作は、韓国ヒップホップレーベル〈AMBITION MUSIK〉に所属するラッパー・Leellamarzや歌手・Jung Jin HyeongJungなどのMVを手がける去年結成したばかりのチーム〈MEMUD〉にお願いしました。結果的にその大胆な露出は、わたしの魅力をあらわすベストな方法だったと思います。
──歌手を目指していたころからそのような堂々としたアーティスト像を目指していたのでしょうか?
じつはまったく反対で、小さいころからもちろん歌手は目指していたんですが、ステージに立つと震えてしまうステージ恐怖症でした。あとから知ったんですが、歌う姿を励ます母親とは反対に、プログラマーの父親も昔は歌が好きだったけれど、恥ずかしがり屋で人前では歌うことはなかったらしいので、もしかしたらそのDNAが影響していたのかも。大勢の前で歌えないことから、10代のころはプレイヤーには到底なれないだろうと思って、大学卒業後に裏方として音楽業界に入れたらいいなくらいに思ってたんです。
──そこから何をきっかけに、SMエンターテイメント傘下のMillion Marketに所属するまでに?
大学入学後、高校生や親御さんの前で大学について紹介するアンバサダーになったことがきっかけでした。文字通り、学校の“顔”として大勢の前で話し、ときには何校かツアーしてスピーチしたり、そういう活動を1〜2年生の間に行なったら、次第に人前でなにかすることが楽しくなってきたんです。自分でも変化を感じたのと同時に、若いうちにチャンスを掴むべきだと決心して、もう一度プレイヤーの道を目指し始めました。とはいえ、なにも業界にツテがあるわけでもないので、まずは3カ月間ほど音楽学校に通いつつ、オーディションを受けるうちに、とある会社にアイドルグループとしてデビューしないかって誘われて。
──アイドルグループ? いまとは全然違う路線ですね。
そうなんです。でも、正直それまではとにかく歌手になるために行動に移すだけで精一杯だったから、その一言でやっと自分の歌手として見せたい/見せたくないスタイルがあることに気がついて。もともとアイドルグループもブラックミュージックも問わずさまざまなジャンルの曲を聴いていたし、アイドルグループの物凄い努力やエナジーはリスペクトしていたんですが、それは自分に置き換えると違うなと。それで一度ちゃんと音楽に集中するために、大学を休学して独学でレコーディングやミックスを覚えていきました。試行錯誤を繰り返しながら暫くして、友人の紹介でわたしの曲を気に入ってくれたSMエンターテインメントの方に会う機会があり、いまに至るって感じで。
──先ほどアイドルグループもブラックミュージックも関係なくさまざまなジャンルの音楽を聴くとおっしゃっていましたが、どのような音楽から影響を受けてきましたか?
兄が聴いていた音楽からの影響が大きいですね。昔はよく兄の部屋にこっそり忍び込んでは、2PAC、カニエ・ウェスト、アリシア・キーズ、韓国歌手の曲などを彼のPCから聴いていました。そのあとバレて怒られちゃったけど(笑)。でも、それらのポップソングにいい意味でショックを受けて、みずからポップソングも聴きあさるようになりました。ビヨンセ、ブランディなどの王道R&Bベースのポップソングから、東方神起、BIG BANGなど韓国アイドルグループの曲まで幅広く。プレイリストの70%は、そうした海外と韓国の曲で、残りの30%はJ-POPでした。
──どのあたりのJ-POPを楽しんで聴いていたのでしょうか?
日本のアニメやドラマを好きになったのがきっかけで、安室奈美恵や宇多田ヒカル、中島美嘉、嵐、あとは日本語版のBOAや東方神起も聴いてましたよ。言語が理解できない代わりに、キャッチーなメロディーに惹かれて。日本語に限らず、英語の歌手の曲もすべてコンセプトやカルチャーバックグラウンドをわからないまま聴いていたので、歌詞というよりもメロディーに心打たれていましたね。
──1年半前と違って、いまや自分も言語の壁を超えて誰かのプレイリストに入ってるわけですよね。いまではソウルのラッパーとのコラボレーションも積極的に行なっていますが、どういう経緯なんでしょう?
みんな友達としてお互いの活動を知っている状態からコラボレーションが始まっていきましたね。たとえば、『Is it Love?』でコラボレーションしたSIK-Kも、もとからお互いになんでも共有できる居心地のいい仲で。彼は韓国のなかでもハードワーキングなラッパーのひとりと言えるほど、同時に複数のレコーディングをして沢山の曲をリリースしてます。お互いに曲を送りあって「これはどうかな?」「もう少しこうしてみよう」といったカジュアルなプロセスで進めていきました。直に彼とコミュニケーションしたことで、コンセプトやビジュアルまで一緒に固めていけたのがよかったな。Simon Dominicは、韓国のラップシーンで友人としてお互いの活動を見てきたので、彼から連絡を受けて歌を送ったら、すんなり曲づくり、MV撮影までいったり。GRAYも同じく昔から知っていたので、女性ボーカルをフックに使いたいという連絡をしてきてくれたことから自由にお互いのアイディアを出しあっていって『Take Me There』をリリースできました。
──新曲をリリースしたばかりですが、これからの展望は?
今年4月にニューシングル、夏にはEPをリリースしていくので、今回の新曲を皮切りにどんどん新しい自分のイメージを描いていきたいですね。日本の音楽だけでなく、アニメやカルチャーも好きなので、いつかは日本へライブをしに行きたいです。